撮影機材にこだわりを持つ人の中には、単焦点レンズの愛用者が多い。そんな統計データはないが、筆者のまわりにいる人たちから感じる雰囲気だ。殺気と言い換えてもいい。彼らにレンズの話を振るとウンチクを延々と聞かされるのであまり近寄りたくはない。ただ、ほかの人から見れば、たぶん私も同類だろう。
単焦点レンズの魅力といえば、ズームレンズに比べた場合の描写性能の高さと開放値の明るさ、小型軽量によってもたらされる携帯性と取り回しのよさ、ズームができない潔さ、シンプルさなどが挙げられる。製品によっては当てはまらない場合もあるが、大まかにはこんなところだ。ズームレンズのように便利で万能ではないからこそ、かえって愛着がわき、こだわりが生じるのかもしれない。
このうち、描写性能については近年のズームレンズの性能アップによって、もはや単焦点の特長とはいえなくなりつつある。そしてさらに、開放値の明るさという単焦点レンズの優位性を打ち崩す画期的なズームレンズが登場した。ズーム全域で開放値F1.8を誇る、シグマ「SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM」である。
このレンズは、APS-Cサイズセンサーを搭載した一眼レフに対応し、シグママウントのほか、ソニー/ニコン/ペンタックス/キヤノンの各マウント用が発売または発売予定となっている。35ミリ換算の焦点距離は、今回試用したキヤノン用の場合、28.8〜56ミリ相当。ズーム倍率でいうと2倍弱であり、決して高くはない。ただ、28ミリ相当、35ミリ相当、50ミリ相当という3本の明るい単焦点レンズを持つことに匹敵するので、実際の利用シーンは結構幅広い。
街角や暗所でのスナップ撮影のほか、子どもや赤ちゃん、ペットといった小さなものを近距離から話しかけながら撮るのに打って付け。また、中望遠域がやや不足するものの、周辺の状況までを写し込んだポートレート撮影や、テーブルフォトなどの静物撮影にも役立つ。今回試用してそんなふうに感じた。
写りについては、撮影結果を見るまでは、正直あまり期待していなかった。これまでにないスペックを実現しているので、画質はそこそこだろうと。ところが実際には、四隅までくっきりと再現する解像力の高さに驚かされた。特に、18ミリ側の開放値でのシャープネスは優秀で、そこらへんの単焦点レンズを上回っている。歪曲などの各種収差もあまり目立たず、光学性能面の満足度は高い。
レンズの重量は810グラム。このスペックなら、それなりに重いのは仕方ないところ。外装は、鏡胴のほぼ全体が樹脂製ながら高品位なマットブラックで、根元部分が光沢仕上げとなる。フォーカスリングとズームリングの感触は良好。インナーフォーカスかつインナーズーム式のため、操作による重心の変化はほとんどない。
近ごろのレンズ設計技術は、カメラの高画素化に合わせるように大きく進化を遂げている。シグマ「18-35mm F1.8 DC HSM」は、その進化を開放値という分かりやすい数字として具体化したレンズである。しかも、数値だけではない、良好な描写力はお見事といっていい。
注意したいのは、従来のズームレンズの感覚でラフな撮り方をすると、開放値ではピンぼけのミスが生じやすいこと。知人のカメラマンはこのレンズの被写界深度の浅さを見て「ピントが紙のように薄いレンズ」と評したが、そこはまったく同感である。
(編注:本記事では一般的な撮影状態での利用を念頭としているため、人物撮影にレフ版などは利用しておりません)
(モデル:佐藤里穂 オスカープロモーション)
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