エンタープライズアーキテクチャでは稼げない?企業と官公庁におけるEA導入事情(6/6 ページ)

» 2005年06月06日 03時51分 公開
[大野隆司(ヘッドストロングジャパン),ITmedia]
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ROIが出るのか?

 EAを実施するには、相応の時間と工数、すなわちコストが必要となるが、「最適化の趣旨は理解できるが、そこまでコスト・時間をかける余裕がない」「EAをやることでの、具体的なメリットがみえない」というものが多くあげられるコメントだ。

 また、既にEAに取り組んでいる企業に対して「EAのモデルを活用することによる全社システムの可視化や、ビジネス部門とシステム部門のコミュニケーションの改善などの目的は理解できるが、そこから金額的な効果を本当に創出していけるのか?」「EAを作り上げることそのものが目的化してしまっているのではないか?」といったコメントも多く出される。

 ひと言で言えば「EAを実施することのROI(投資対効果)はどうなのか?」ということになるわけだが、民間企業ではこのポイントが非常に重要だ。この点をクリアしないことには民間企業におけるEAの市場は十分な規模に拡大しないだろう。

EAで全体最適を定義していけるのか?

 これは、EAで定義されているTo beのモデルは、どのように導出していけばいいのだろうかという疑問だ。

 「ある業務、システム流域について業務とシステムをうまく連携させる、最適化させるという可能性は理解できるが、全体最適にもっていけるかどうかの道筋がみえない」「単なる業務効率化ではなくて、戦略の実現に貢献し、企業価値の改善につながるTo beを描くにはどうすれば良いのかが不明」といったコメントは、核心をついた疑問と言える。結論から言えば、EAそのものでTo beモデルの導出方法や考え方は明示的には定義されていないと考えるのが妥当だ。

 官公庁のEAにおいては、CIO連絡会議事務局による「業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)」中に「業務・システムの最適化に係る共通見直し指針」が提示されているが、結論から言えば上記の疑問に対応することは難しい。業務面(正確には政策・業務体系)について見ても、ほぼ業務効率化のみにフォーカスがあてられている。

 これはこれで必要なことに異論はないが、業務効率化のノウハウを定義、検討する前に、特定の業務やシステムはどのように企業価値の創出に貢献するのかを定義しておくこと、すなわち、業務やシステム化のスコープの定義など、優先度の高い検討事項があるはずだ。

どうすれば良いのか? 

 はじめにも述べたが、EAは企業が最適なIT環境をプランするうえで有効な手法であり、企業においても大きなメリットを創出することが可能だ。ただ、EAのフレームを用いて業務やシステムのモデルを描写すること自体や、企業内のシステムの可視化すること自体が最終目的化してしまうようなEAの取り組みは最低だ。EAをどのように活用してROIを出していくかを、しっかり考えることが必要だ。

 EAを売る側は、まさにこの点についてよく知恵を絞り、提案をしていかなければEAで稼ぐことは難しい。しかし、解はいくつか存在する。

大野 隆司(ヘッドストロング・ジャパン プリンシパル)


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