SEやITコンサルタントが企業の情報システムを設計する上で、経営戦略や世界経済の動向、IT投資のトレンドを把握しておくことは重要だ。ビジネス成功の基盤になるシステムを提案するためには、マクロの観点からITと経営の間にある因果関係を理解しなくてはならない。(特集:顧客満足度ナンバーワンSEの条件)
大野隆司 (ヘッドストロング・ジャパン プリンシパル)
ERP、SCM(サプライチェーンマネジメント)、CRM(顧客関係管理)など、パッケージアプリケーションを中心とした情報システムが企業に入り始めてからおよそ10年が過ぎた。だが、ここにきて、「ITは本当に役にたつのか?」という問いかけが増えてきている。2003年の3月に、米Harvard Business Review誌に掲載された「IT Doesn't Matter」(ITなんて大した話ではない)が、IT業界を揺るがしたことは記憶に新しい(関連記事)。数年後の未来に向けて、企業は経営の中にITをどのように位置付けていくのかを考えてみたい。
現在、多くの日本企業は、ITそのものによる企業価値、すなわち財務パフォーマンスの改善に懐疑的になっている。あくまでも、ITは財務パフォーマンスの改善や戦略を実現する手段における、1つの選択肢であって、本当に重要なのは、競争優位を確立するためのオペレーションの構築にあると考えを改めようとしているのだ。(図1)
この10年の間、「ITで競争力を強化した」という米国のニューエコノミーに注目が集まったことや、ビジネスへのインターネット利用の加速、ITおよび通信インフラの機能向上と低価格化などを背景に、「ITへの積極的な投資こそが競争力獲得の源泉」という考え方が半ば常識になりつつあった。
煽られるように、日本企業の多くが、IT化に乗り遅れると負け組みになる、グローバルスタンダードの採用は不可避だ、欧米数千社のベストプラクティスを導入するべきであるといった危機感を共有するようになっていった。そして、いつの間にか、IT投資の際に、導入効果を厳しく検証するという感覚を失っていったのである。
一方で、Windowsの普及やパッケージアプリケーションによるシステム構築事例の増加、さらに、インターネットなどの標準技術の採用が広がったことを追い風に、ITベンダーのマスマーケティングがかつてないほど活発化していった。それらは、別の側面から企業のIT投資を煽ることになった。
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