なぜコンピュータが成果を上げないのか?情報技術による新しいビジネスシステムの創造(前編)(2/2 ページ)

» 2005年10月06日 08時00分 公開
[小川正博,SOFTBANK Creative]
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管理業務と生産業務で活用する企業

 板金プレス加工業の岡村機工(岐阜県関ヶ原町)は、従業員50名の中小企業である。この企業は製造現場を中心に、管理業務と加工業務の両面でコンピュータを活用して成果を上げている。そして、デジタル化された情報と手書きのアナログ情報とが一体で管理され、いつでも閲覧できるように履歴として保存されている。

 まず、受注の際の見積り情報から、図面、CADデータなどがパソコンを活用して一元的に管理される。顧客からのメモや図面など紙媒体のデータは、スキャナーで読み込まれ、OCRデータとして電子ファイルに保存される。コンピュータで入力された受注データだけでなく、イメージデータが一体化されてファイル化される。加工作業で難しいこと、注意すべきことなど現場作業者のメモもファイル化されて、次に同じ製品を受注したときに、簡単に以前の加工情報が活用できる。

 もちろん、生産計画と実際の進行状況も管理され、工程管理がパソコン上で行われている。受注データで生産計画が組まれ、工程ごとに終了時間が現場のコンピュータから報告されて進捗管理が行われるのである。

 こうした管理だけでなく、生産業務にもコンピュータが活用される。加工データが設計から直接、現場の設備に無線LANで伝送されている。CADデータはCAMデータに変換され、それがパンチングプレスなどの設備に送られる。プレスなどさまざまなノイズを発生する加工機械を使用している工場で、ケーブルではなく、無線で加工機械を操作することは珍しい。こうして、現場作業での省力化を図り、相次ぐコスト削減が求められる板金加工で収益を確保する。

情報技術を活用したビジネスシステムを

 この例では、生産や管理のための情報がコンピュータで伝達されるだけではない。パンチングプレスなどコンピュータ制御設備を活用している。そうした設備自体が情報機器でもあるため、コンピュータによる管理で、加工機械は無人稼動もできる。設備稼働時間を増やすことができ、必要な作業者も少なくなるため、加工業務で収益を確保することができるのである。

図2 ビジネスシステムと情報技術

 しかし、このように熟練作業を情報処理技術に変えてしまうようなコンピュータの活用は一般には難しい。それにそうした設備が市販されるようになると、その設備を活用する技術の優劣で利益が左右される。情報化された設備を使用して、熟練技能者並みの高度な加工ができないと利益が獲得できなくなる。さらに、中核的業務で設備を稼動させる技術だけでなく、前述の例のような設計データや管理データを活用して、顧客ニーズに応えるための仕組みが重要性を増してくる。中核的業務と支援的業務の両面で、情報活用を相乗的に発揮させると、効果が高まっていくからである。

 それは、利益を創出する業務そのものでの活用が難しいのであれば、コンピュータを活用した事業の仕組み全体で、収益に結びつけなければならないことを示す。つまり、情報技術を活用したビジネスシステムで収益を獲得するのである。情報技術がなくては実現できない新しい事業の仕組みを構築して、今まで対応できなかった顧客ニーズを満足させる仕組みを形成する。(→後編へ)

小川正博

札幌大学経営学部教授

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