官民の共同歩調による取り組みの現状――滋賀県激変! 地方自治体の現実

地域情報化を推進するにあたって欠かせないのが、官民の共同歩調による取り組みだ。「産学官民による推進」を謳った「びわ湖情報ハイウェイネット計画」を推進中の滋賀県の取り組みについて、同県IT推進課の相井俊宏氏に聞いた。

» 2006年04月29日 23時08分 公開
[田中雅晴,ITmedia]

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 官主導、あるいは民間主導、そのいずれか一方だけでは、地域情報化の推進は難しい。官民一体となった取り組みがあってこそ、理想論と現実論がかみ合った、実を伴う地域情報化が可能になる。

 滋賀県が2010年度を目標年度とする「びわ湖情報ハイウェイネット計画」は、その基本理念に、「産学官民がそれぞれの役割認識に基づく取り組みを行うことにより推進する」を掲げている。同計画は1999年から推進しているが、その推進組織の一つとして、企業、民間団体、県内自治体、および学術研究機関で構成される「滋賀県高度情報化推進会議」がある。

 この組織には、趣旨に賛同する産学官民の約100会員が参加し、共同歩調を取りながら情報化意識の高揚や地域社会の情報化を進めている。その取り組みと現状について、事務局を務める滋賀県IT推進課の相井俊宏氏に聞いた。

相井氏 滋賀県県民文化生活部IT推進課IT推進担当主幹の相井俊宏氏。同課は滋賀県高度情報化推進会議の事務局を務める

IT系、非IT系をまたいだ県内有力企業が参加

 1988年に設立された「滋賀ニューメディア推進連絡会議」を前身とし、1992年に現在の呼称に改称された「滋賀県高度情報化推進会議」は、高度情報化の進展に対応し、企業、自治体、経済団体などが主体的に進めるOA化、FA化、システム化などの諸活動を生かしながら、異なる分野や地域間の連絡、協調を図ることにより、情報化意識の高揚や地域社会の情報化を進めることを目的に設立された。

 会員は、自治体(県内全市町と県)、民間経済団体、そこに、情報システム開発、情報設備工事、情報機器製造、CATV、放送局、通信などのIT関係企業に加え、経済団体、金融、食品、建設や農業協同組合などの非IT系の企業、立命館大学、龍谷大学、滋賀県立大学などの学校法人も参加し、まさに産学官民が一体となった地域情報化への取り組みを進めている。

 「呼びかけは県主導だが、現状の内容的には民間主導」

受講型から参加型へスタイルを軌道修正

 滋賀県高度情報化推進会議の活動は、年度ごとにその具体的な内容は変わるものの、「企画調整事業」「調査研究事業」「普及啓発事業」「交流事業」「研修事業」の5項目に大別できる。

 しかし、年度を重ねるごとに会員数が減少傾向にあることが懸念されていた。その理由を探る中で最もよく聞かれた問題点が、「参加メリットが薄れている」というもの。産官学が一緒になった組織の重要性はだれしも認識しているが、参加する実感や魅力がないと言われてしまう状況になってしまったのである。

 そこで事務局では2005年10月より、参加者にメリットがある内容に軌道修正すべく、中でも調査研究事業と研修事業の内容を大きく変更した。それまでは、どちらかと言えば参加者にとっては受け身のスタイルである「受講型」から、実際の企業や行政の活動の現場で起こり得る事例のケーススタディを用いた参加型の内容に変えたのである。ケーススタディで得られた現状への提案を、民間であれば商品開発に、自治体であれば住民サービスに結びつけることを目的としたスタイルになったわけである。

具体性と実理性を持った研究・研修へ

 調査研究事業での事例を見てみると、まず、「地域防犯防災研究会」「安全安心なネットワーク研究会」「介護福祉システム研究会」の3つに研究会(研究対象)を絞った。

 「地域防犯防災研究会」では、

  • 現状の防災システム・防犯システムの現状はどうか?
  • 市町のニーズ調査と課題は何か?
  • そのニーズを満たすには、どういう媒体があるか?

 「安全安心なネットワーク研究会」では、

  • 高齢者に使い勝手の良いネットワークとは?

 「介護福祉システム研究会」では、

  • 高齢化社会にむけて、いかに効率の良い介護福祉システムをITで実現するか?
  • 介護に至らないようにする技術、予防介護にITを活用するには?

など、具体的かつ現実的な内容に関して、参加会員が自ら考え行動し、調査と研究を行っている。

 また、研修事業に関しても、「実際に次に生かせる、職場に帰ってアクションを起こしてもらえる研修を」という考えに基づき、「結論をグループディスカッションで導き出す→所属に戻って簡易診断を行う→その結果を専門家に評価してもらう→所属に戻ってその分野のシートを作る→再び評価」という、ありきたりなものではなく、実際の所属・職場をケーススタディとして分析ができるスタイルを採っている。

 参加型で、参加者にメリットのある活動への取り組みは、まだまだ試行錯誤の手探り状態であると相井氏は言う。しかし、方針変更後1年を迎える2006年10月には、方向性と手法が確立できるだろうというのが、見通しであり目標であるようだ。

今後の課題は専門性と自治体での継続性

 最後に、滋賀県高度情報化推進会議が今後解決すべき課題について相井氏に聞いた。

 同氏がまず挙げたのは、極めて基本的な課題であるが、日々忙しい業務の中で、時間をいかに作って参加してもらうかということ。次に、現状ではさまざまな提案や考察は出るが、いろいろな業種の参加者の意見を尊重しながら整理をする難しさ。この原因には、地域社会のIT化研究という性格上、より専門的で幅広い知識や社会の動向分析力が要求され、受講型からの脱却という変化を目指す一方で、やはりさまざまな分野の専門家の意見が容易に取り入れられるシンクタンク的な仕組みも必要であるという方向性も見えてきた。

 そして最後が、これが最大の課題であるが、自治体での継続性の問題だという。県や市といった比較的大きな自治体では、地域情報化やITを推進するための何らかの専門部署が設置されており、滋賀県高度情報化推進会議で得られた情報やノウハウは、部署として共有化し、継続的に取り組むことができる。これに対し小規模な自治体においては、例えば総務課に所属する職員が他の業務の傍らIT化に取り組むといったこともあり、その職員の力量に頼っている現状がある。これではせっかくの情報やノウハウが共有できない上に、その人が異動したら分からなくなってしまうという極めてお粗末な結果になる可能性すらあるのだ。

 こうした問題を今後どう解決していくかが、滋賀県高度情報化推進会議の課題であると言えるだろう。

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