ちょっとかわいい、でも困ったプライドの高いM君女性システム管理者の憂鬱(4/4 ページ)

» 2006年07月20日 08時30分 公開
[高橋美樹,ITmedia]
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A社担当者:「すいません、原因が分かりました」

わたし:「何だったんですか?」

A社担当者:「このDATのデータ、NTバックアップで取ったものらしいです」

わたしたち作業員全員:「えーっ!」

 引き継ぎ手順書にインストールの手順から事細かに書かれているバックアップソフトは、命名規則の制限によりNTバックアップで採取したデータが読めないことが多い。そうA社からしつこいくらい説明を受けていた。というか、あまりにもメジャーな情報のためわれわれの間ではもはや常識となっていた。それなのに、当のA社がNTバックアップでデータを採取するなんて・・・・・・。開いた口がふさがらないとは、このことだった。

 しかし、A社担当者が悪いわけでもなく、百人近い大所帯のA社チームのこと、メンバーになったばかりの社員がバックアップを依頼されて、訳も分からず取ったものだったのかもしれない。ともかくデータは手元にあるのだから、それをNTバックアップでリストアすれば作業は完了だ。そう誰しもの頭の中に安堵感がよぎったはずだ。

 しかし突然、新しい不安が首をもたげてきた。

 そう、ここでは引き継ぎ手順書に従った作業しか認めらないのだ。ということは、あくまでも指定のバックアップソフトで採取したデータが必要となるのだ!

A社担当者:「昨夜の自動バックアップで採取したデータを運ばせます。申し訳ありません」

 「しょうがないですよね・・・・・・」と、意気消沈するしかないメンバー。

 わたしたちの下には、データもある。それをリストアする方法も知っている。しかし、それでは引き継ぎが完了せず、何か起こった際に、ここにいるわたしたちが責任をかぶることになりかねない。皆、暗い面持ちでデータが届くまで、休憩をとることにした。ついでに本社司令塔M君に状況説明の連絡を入れる。

M君:「いいなあ、みんなで仲良くご飯食べに行くんですね。」

わたし:「はっ? 何を言っているの? 現場はそんなのんきな状況じゃないんだから。みんな切羽詰まってるし、早く帰りたいし、M君が思っているほど甘いものじゃないよ」

 と答えてはみたものの、数時間の作業から開放され、ビルを出たときには、データが届けば今日の作業は完了という安堵感から、全員かなり打ち解けていた。遅めのランチは、もっぱら趣味やプライベートの話題で盛り上がったのだった。

 それから3時間後、無事データが手元に届いた。2時間かけてリストアし、何とかその日の作業が終了した。すぐにでもリストアできるデータを手元に持ちながら、絶対的な引き継ぎ手順書の存在のため、半日を無駄に過ごしてしまった。正直、納得いかない気分ではあったが、これが大人の世界だと全員あきらめはついていた。

 その後も何かと問題が起きた引き継ぎではあったが、なんとか3日間で無事終了。すべての作業が終わった時には、現場作業者の間に不思議な連帯感が生まれていた。「そんなわけで、じゃあ、ちょっとだけ」と、3日目の作業終了時には、深夜にもかかわらずそのメンバーで飲みに行ってしまったのだが。

 当然、本社待機のM君には内緒である。それから一年後、転職のためわたしは会社を退職したが、そのときのメンバーをいまだにホームパーティーに招待している。そのことはもちろんM君には内緒なのだった。

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