NPOのIT活用を促進するために、シーズではマイクロソフトに協力を求めた。マイクロソフトは、米本社のビル・ゲイツ会長自身がビル&メリンダゲイツ財団を設立し、市民活動を支援していることからも、NPOには協力的な立場をとっている。
マイクロソフトの法務・政策企画統括本部政策企画本部社会貢献部の竹原正篤部長は、NPOに対して次のように話す。
「マイクロソフトでは、デジタルデバイドの解消を今年度の重要なテーマとしている。デジタルデバイドの対象は国によって違うが、日本においては中小規模事業所、行政、教育、NPOという4つのカテゴリーと設定している。NPO団体のデジタルデバイドを解消していくことが大きなテーマの一つであり、今年4月には、NPO-Jという支援策を発表した」(竹原氏)
NPO-Jの発表には、日本法人のダレン・ヒューストン社長とともに、来日していたビル・ゲイツ会長が出席。マイクロソフトが全社を挙げてNPOを支援していく意思を持っていることを強く印象づけた。
発表から半年が経過し、NPOが利用するツール類の提供などが行われているが、「その一方で、ツールを提供するといった活動だけでは、十分に効果的な支援とはならないことも痛感している」と竹原部長は指摘する。
NPO法人の中にはITに対する知識が薄い団体もある。そういった団体にいきなりツールを提供しても、十分にツールを使いこなすことができないのだという。
そうした現状に対し、シーズの松原氏は、「そこで、エンジニアの皆さんの助けが必要となる」と強く訴える。
「マイクロソフトとともに、日本のNPO法人に最適なベストプラクティスを作り、それを公開していこうと活動を進めてきた。しかし、ベストプラクティスを作って示しただけでは、それをすべてのNPO側が実践できるわけではない。それを支援してくれるエンジニアの力が不可欠になってくる。特に、地域に密着した活動を行っているNPOには、その地域にいるエンジニアの方に助けてもらわなければ、中央から支援してもうまくいくわけがない」(松原氏)
エンジニアへの支援要請として、マイクロソフトではエンジニアコミュニティーのINETA、Culminis加盟コミュニティーに協力を求めた。冒頭に紹介した11月5日のイベントにも、両団体に加盟するコミュニティーの参加者が多数来場している。松原氏はこのイベントでいろいろなエンジニアとコミュニケーションをとった。
「米のINETAのメンバーは、2005年に米国で起こったハリケーン・カトリーナのときには安否支援サイトを構築し、多くの人々から感謝をされたそうだ。その話を聞いた日本のINETAの方は、自分たちにも何かできないかと考えられるようになったという。自分の技術を仕事とはまったく違う場面で生かすことができる、その体験を一度すると、自分の持っている技術がどれだけ社会にかかわっているのかが実感できる」(松原氏)
NPOの中には防災、高齢者支援、子育て支援など自分たちの生活に密着した活動をしている団体がたくさんある。エンジニアがNPOの支援を行うことで、結局は自分の生活を支援することにつながることもある。
さらに、NPOを支援することが、日本の地位向上に寄与する可能性もある。世界各国のNPOと比較すると、日本のNPOには、「個人の力は優秀だが、組織としてのパワーに欠ける」(松原氏)といわれている。
「これは個人ですべての仕事をこなさなければならないNPOが多いことに起因している。細かい事務作業もすべてこなさなければならないので、それに忙殺されて専門性を持てなくなってしまう。それをカバーするのがITではないかと考えている。ITを活用することで、専門性のある活動に特化していくことで、日本のNPOの組織力アップができれば」と松原氏は期待する。
エンジニアのパワーが日本のNPOの明日を切り開いていく鍵となっていきそうだ。
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