都会のオフィスでは、有象無象の電波が飛び交っている。先ほどの「池」の例でいうなら、あらゆるところから波が部屋の中に入っている状態で、無線LANを運用しているようなものだ。
電波干渉のうち、最も影響が大きいのがWi-Fi(IEEE 802.11b/g/n)が利用する2.4GHz帯の波長に近い電波だ。電波は同じ大きさの波であればあるだけ、相互にかき消されやすい。もし2つ以上のAPを同じ部屋に設置しているなら、それだけで相互に影響を受けていることになる。もちろん、窓の外から飛び込んでくるほかの無線LANシステムの影響もある。
このほかにも2.4GHz帯を使うシステムはたくさんある。実は、2.4GHz帯は日本では「ISMバンド」と呼ばれ、無線LAN以外の電波の影響を受ける可能性も高い。例えば、幹線道路に隣接したオフィスでは「VICS(道路交通情報通信システム)」の電波が入ってくる場合もあるし、工場や病院に隣接した場所では、構内無線識別システムや医療用機器などの影響を受けることもある。
これとは別に、違法電波の影響を受ける場合もある。大出力の違法CB(Citizen Band)無線を搭載したトラックなどが通過するたびにデータ通信が遮られるという例もある。無線LANの干渉源は、必ずしも2.4GHz帯の電波だけとは限らないのが悩ましい。
電波干渉の影響が大きい環境でスループットを改善するには、当然ながらAPを複数配置してクライアントとの距離を縮める、というのがセオリーだ。距離が近いほどやり取りする波が大きく、ほかの電波の影響が受けにくくなるからだ。しかも1つのAPに掛かる負荷が分散されるので、APの処理能力も上がる。
もちろん、単に複数のAPを配置しただけでは不十分だ。無線のチャンネルを自動設定にせず、3チャンネル以上離して手動でセッティングするのがポイントだ。この際、事前にNetStumblerなどを利用し、オフィス近隣の無線LANの状況も調べておく。もし、近くにかなり電波の強いAPがあったら、そのAPの使用チャンネルも考慮に入れてうまくセッティングしよう。
電波干渉の影響が比較的大きい場所では、1つのAPで半径5m以内のユーザーをカバーできるように配置すればいいだろう。しかし、このように密集度を上げると、クライアント側で誤って遠い方のAPに接続してしまう可能性もあるので、社員への周知が必要だ。
次に、Bluetoothなど2.4GHz帯を使うデバイスにも注目しよう。Bluetoothの電波は無線LANよりも出力が小さいが、APやクライアントとBluetooth機器との距離が5m以内だと少なからず無線LANのスループットに影響する。無線LANを優先するなら、できるだけ使わないようにするのがベストだ。
なお、社員が勝手にAPを持ち込んで運用する「隠れAP」には要注意だ。この詳細は本連載でも触れたが、NetStumblerなどのツールを使って定期的に調査しよう。
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