オフィスの無線LANが遅い! だが、高価な分析ツールを使わなくともワイヤレス環境の改善は可能。カネと手間をかけずに環境をレベルアップする方策を考えてみる。
連載「再考・ワイヤレスネットワーク」では、本記事を含む以下の記事を掲載しています。
【第1回】わたしがモバイルをしたくない理由
【第2回】なぜ、我が社には無線LANがない?
【第4回】Skype専用携帯電話の「使える度」
【第5回】無線LANの高速化におカネはかからない?(本記事)
ウチのオフィスの無線LANが遅い!――筆者はそんな話をしばしば耳にする。専任管理者が常駐する恵まれたオフィスなら、「そうですね、やっぱり無線LANアナライザを使って調べてみないと……」などと返答できるが、小〜中規模のオフィスともなるとそんな訳にはいかない。
無線LANアナライザの価格は、安いものでも10万円は下らない。単に調査するためだけにこんな投資をすることは難しいだろう。しかも、アナライザはシロウトが使えるものではなく、AP(アクセスポイント)の最適配置に役立てるには、それなりの経験と知識が必要である。
だが、あきらめる必要はない。何も解析ツールがなければワイヤレス環境の改善ができないという話では決してない。まずは、ワイヤレス環境の快適化のために知っておくべきトピックスからおさらいしてみよう。
Wi-Fiシステムの電波出力は非常に小さい。理想的な環境で最大実効速度を得るためのAPとクライアントの距離としては、5〜10mぐらいが限界だ。このため、APは部署やプロジェクトの「島」単位に設置するのが典型的で、SOHOなど小規模なオフィスでは1つのAPですべてをまかなっているケースが多いはずだ。
当然のことだが、APの電波は距離が離れるほど弱くなる。このため、想定される電波強度を基準にAPを配置するのが通例。しかし、重要なポイントは「電波強度=実効速度」ではない、ということだ。
APとクライアントとの距離が離れると電波強度が下がり、伝送速度がどんどん落ちることは事実である。だが、伝送速度が低下する度合いは、環境によってずいぶんと異なるものだ。至近距離〜15mぐらいまではIEEE 802.11gの実効速度が20Mbps台をキープする環境もあれば、環境によっては10mぐらいで10Mbps以下に落ちてしまう所もある。
この状況を無線LANアナライザやフリーウェアソフトである「NetStumbler」などのツールを使って調べてみると、実際、距離が離れるとすぐに伝送速度が落ちてしまう環境では、実効速度の変動が著しく、安定して通信できていないことが分かる。逆に、問題の少ない環境では伝送速度はかなり安定している。
この差をもたらす主たる犯人は電波干渉だ。電波は目に見えないので「干渉」というものをイメージしにくいが、まずは「2人が離れて池のほとりにしゃがみ、水面を叩いて波をもう1人の相手に送る」というシーンを想像してほしい。
風もなく、ほかの波がほとんどない水面なら、自分が起こした波は確実に相手に届く。だが、同じように池の回りで同じようなことをしている人がたくさんいたら、他人の波と自分が起こした波がぶつかったとき、そのぶつかった波だけは崩れてしまう。
2人の距離が離れていれば、どんどん波の大きさは小さくなるので、ほかの波にかき消される可能性が高くなる。逆に、2人の距離が近ければ、他人が起こした波よりも大きいので干渉を受けてもかき消されることはない。つまり、APとクライアントの距離が離れると、それだけ電波の状態が不安定になるため、スループットが低下するわけだ。このあたりの問題を考慮して、APのセッティングと配置を考えればいい。
距離 | 至近距離(1m) | 10m | 20m | 30m |
---|---|---|---|---|
電波強度 | 100% | 69% | 64% | 55% |
スループット | 23.4Mbps | 24.6Mbps | 15.0Mbps | 10.3Mbps |
ある都心のオフィスでIEEE 802.11g対応のAP/クライアント間の距離とスループットを計測した結果。比較的電波干渉が少ない環境だが電波強度が半分近くになると急激にスループットが落ちている |
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