社員を救う“2.0”は本命なのか?エンタープライズ2.0時代の到来(2/2 ページ)

» 2007年08月27日 08時00分 公開
[吉川日出行,ITmedia]
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 ある金融系の企業では、インターネット上で膨大な情報を個人向けに整理し、表示するために考え出されたStartpagesソリューションのイントラネット版をエンタープライズ2.0の一つのゴールだと定義し、それに向かって前進を始めた。基幹システム、情報系システム、OA系システムといった枠にとらわれず、ユーザーインタフェースをブラウザへ統一し、インターネットで洗練されたAjaxやフィードなどの技術を使い比較的リッチな表現力を実現し、情報を見やすく効率的に提供する仕組みを提供しようというのだ。

インターネットにおけるStartpageソリューション「Netvibes」の画面イメージ

 ちなみにiGoogleやNetvibesといったStartpagesを企業内で実現するためには、単に各コンテンツを枠で区切って表示するトップページを作ればよいというわけではなく、従来異なるプラットフォームで構築されてきたシステムを、Webから統一的に利用するために個別システム側のWebサービスへと対応させることが不可欠である。その際には、システム間で共通的機能を統合して共通基盤化したり、同一データを集約したデータ統合基盤を整備するなどの作業も必要となる。また、社内にある全データをいちどに企業内のスタートページに表示したのでは、なんら情報洪水の解決にはならないだろう。当然、各個人の業務に合わせたパーソナライゼーション機能を実現し、業務プロセスに沿った情報提供が必要となる。このように企業内スタートページは、「システム統合」「Web化」「パーソナライゼーション」を持って、情報洪水を乗り切ろうというエンタープライズ2.0システムである。

 ほかにももう一つ例を挙げるならば、ボトムアップ型の情報整備と、集合知の活用を行うべくイントラネット内でソーシャルブックマーク利用を行う事例がある。冒頭に述べたように、現在の企業内は専門化が進む傾向にあり、各社員は各担当業務について上司以上に深い知識やノウハウを持つようになっている。だからこそ、これまでのような本部からの押し付け的な情報提供だけではなく、こうした各社員の持つ専門的なノウハウを上手に収集し、組織として共有する仕組みが必要なのだ。最近にぎわせている企業内におけるソーシャルブックマークの導入事例では、組織内、および外部に流れる大量のニュースを社員全員でブックマーク共有し、情報収集と選別を効率化する動きがある。それと共に、同時にタギングを行って情報の整理と分類まで実施していることがポイントの1つだ。

イントラネット版ソーシャルブックマークの画面イメージ

 これは従来まではトップダウンで階層的かつお仕着せ的に行われてきた情報選別や、分類作業がユーザー側に権限委譲できる可能性を示している。まさにシステムによってワークスタイルが変わる可能性をもたらすという意味でエンタープライズ2.0のシステムらしい形態だといえるだろう。

 さてこうした企業内でのエンタープライズ2.0の浸透に対して、大きな障害となる要素も幾つかある。

 その1つ目は、企業内システムのアーキテクチャーの多様性とその技術レベルの未達である。インターネットではWeb技術が相当に普及し、いろいろなサービスがHTMLやWebサービスで実現されている。ここに、さらにサービス連携を実現する双方向という2.0の波が来た状態だが、企業、特に大企業においては、ホスト系のアーキテクチャーやC/Sで構築されたシステムがまだまだ沢山残されているのが実情だ。いまだにWeb化の途上にあるだろう。そして、このようなシステムを担当する社内情報システム部門は、当然ながら古い技術基盤を中心に技術蓄積を行ってきた経緯があるため、必ずしも新たなWebの技術には詳しくないことが多い。そう、インターネットの時に比べると技術基盤、人材的基盤が共に未熟なのだ。これはエンタープライズ2.0を推進していくにあたって、今最も大きな障害になっているものだろう。

 次にユーザーのリテラシー問題が挙げられる。Web2.0が話題の中心となった段階でも、比較的インターネットの経験が浅いユーザーも多いと考えるべきだろう。これは日本の企業内では顕著であり、例えばメールを印刷して読むことを習慣としており、返信することもままならないというユーザーもいる。インターネットの場合には、このようなユーザーは参加しないことで場が形成されてきたが、イントラネットではそうはいかない。社内システムでは基本的に全員が利用できることがシステムの前提条件になるのである。このリテラシー問題は、エンタープライズ2.0の推進時に、余計な追加機能開発コストや教育コストをもたらすだけでなく、旧来のシステムの操作方法にとらわれすぎてせっかくのWeb2.0系の良さを損なってしまうことすらある。

 さらにこの呪縛にとらわれている一部の人達は、従来にはない双方向の情報発信の場合でも、利用者=発信者が100%でないといけないという誤った認識を持っていることが多い。これによってシステム導入後のかなりの期間が単なる利用率の向上のために費やされ、本来の目的の達成へ取りかかれない場合もある。

 冒頭に書いたようにエンタープライズ2.0は情報洪水と専門化に悩むユーザーを楽にさせるシステムなのだから、そもそも情報洪水に悩まされず、専門性もなく発信や共有すべき情報を持たないユーザーに無理矢理システムを使わせることは、むしろ余計な負担を増やすことになりかねない。

 またイントラネットだからインターネットに比較して相互信頼感が著しく高いということはない。同じ組織に属するのに、なぜか、いや同じ組織に属するからこそ相互に信頼し、お互いに利益を得ようという気持ちになれないケースや人は案外多い。そのため、組織内の全員が相互に強く信頼しあっているケースはありえないと考えておくべきだ。インターネットの世界でのウィキペディアなどの相互信頼をベースとした仕組みが成り立つのは、母数が膨大であるからこそ、情報発信するユーザーが少なくても絶対数が集まるからである。母数に限りのあるイントラネットの場合には、これがそのまま当てはまると思わないほうがよい。

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