大規模なコラボレーション活動を成功に導く5つの原則――パート2Magi's View(2/2 ページ)

» 2008年04月08日 00時00分 公開
[Charles-Leadbeater,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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 多様なスキルを持つ人々が出会い協力する場とみた場合、市場は決して最適な仕組みではない。問題を抱えた人物がその解決策を保有する人物を見つけ出す手段にはなるだろう。例えば、蛇口が水漏れするから水道工事業者を探すというような場合だ。あるいは、これをモデルとしたInnocentive。これは製薬企業Eli Lillyから生まれた科学的問題解決コミュニティーで、10万人を超える科学者が登録している。科学的問題を抱えた企業は、その問題をInnocentiveのWebサイトに公開することで、その問題がすでに解決しているか否かを知ることができる。

 しかし、この種の市場には本質的な限界がある。すなわち、特定の問題についてそれを解決できる人物を探すという場合には機能するが、持続的な創造性とイノベーションがなければ解決できないような困難で複雑な問題に取り組む際の基盤とはなりえないのである。そうした問題は丁々発止のコラボレーションからしか解決できない。前回触れたワームプロジェクトは研究者たちがブレナー博士の研究所にある喫茶室に集まることから始まった。それと同じように、We-Thinkプロジェクトには多くの人々が集う場所、アイデアが自由に流れるように配慮された創造的な対話のための中立的な空間が必要である。自由な討論の場とwiki、掲示板とコミュニティー協議会、Lean's Engine Reporter(蒸気機関に関する新技術・工夫を扱っていた業界紙)やWorm Breeder's Gazette(Caenorhabditis Genetics Centerが発行する線虫に関するニューズレター)といった簡易な情報誌。We-Thinkに類するどのプロジェクトもこうした場を持っているのは決して偶然ではなく本質なのだ。そうした場があるからこそ、1+1が12になるような形で人々が集うことができたのである。

 We-Thinkプロジェクトではアイデアは容易に結びつく。プロダクトは通常レゴブロックのように結合可能、つまり相互接続可能な多くのモジュールから構成されているからである。このモジュラリティという概念は決して新しいものではなく、遅くとも1960年代からコンピュータ開発の特徴の1つになっていた。

 当時、IBMはSystem/360というコンピュータを開発中だったが、その責任者だったフレッド・ブルックスはすべての担当者が担当外を含むすべての作業について同レベルで理解していることを求めた。そのため、プログラムの変更にかんする作業日報をすべての担当者間で共有し、毎日始業前に目を通すこととした。しかし、作業日報はほどなく厚さ5センチほどにもなり、コミュニケーションと調整のコストは急増して制御不能となり、連絡ミスと誤解が増大した。増員しても問題は解決せず、かえって事態を悪化させた。処理量は増えたが誤解も増え、それがさらにバグを増やしたのである。作業日報の厚さが150センチとなるに至って、ブルックスはSystem/360を独立した作業が可能なモジュールに分割することを決断し、コアチームを設置して必要なモジュールと相互接続を指定するデザインルールを定めさせた。つまり、モジュールの担当者は自分の作業に集中し、コアチームはシステム全体のアーキテクチャを考えるという体制を作ったのである。この体制では、改良したモジュールはそのままシステムに接続でき、モジュールを改良するたびにシステムを作り直す必要はない。

 しかし、モジュラリティがその威力を本当に発揮するのはオープンな作業方式と組み合わせた場合、つまり多くの試みを並行して実施でき、さまざまなチームが同じモジュールを対象に異なるソリューションを提案できる場合である。これはオープンソースのありかたそのものであり、これこそがオープンソースが「聖杯」を獲得しえた理由、すなわち相互に接続可能でありながら中心を持たない多数のイノベーションを実現しえた理由なのである。レゴブロックには途方に暮れるほど多くの色と形と大きさがあるにもかかわらず、その接続の仕組みは同じである。これと同じように、We-Thinkプロジェクトにも接続のための規則(通常コアチームが定める)があり、これにより独立してはいても相互接続可能なイノベーションが可能となる。マスコンピュータゲームも、コラボレーティブブログも、オープンソースプログラムも、ヒトゲノムプロジェクトも、多くのモジュールが相互にピタリと結合するというこの特徴を持っているのである。

 しかし、レゴのブロック構造だけでは、We-Thinkプロジェクトが機能するには不十分だ。グループでは意思決定も必要だからである。多様な貢献者が集まりアイデアを結合するには同意可能な方法でコラボレートされている必要がある。共有の場は効果的に自己規制できなければ必ず荒廃する。しかし、そうした自己規制は、言葉で言うのはたやすいが、実現ははるかに困難である。

 最終回は残り2つの法則を論じ、結論を述べる。

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