中堅中小企業の経営基盤改革術
特集
» 2008年07月15日 08時00分 公開

中堅中小企業の経営基盤改革術:ERPで在庫量の最適化を実現――組立製造業A社の場合 (3/3)

[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]
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A社におけるERP導入の成功要因

 ERP導入の結果、A社は納期のさらなる短縮に加えて在庫を大幅に圧縮できた。各部門担当者もERP利用に好意的であり、非常に高い満足度を示している。ERP導入としては成功例といえるだろう。A社の成功要因には以下のようなものが挙げられる。

  • 成功要因1 最初にマスターデータの整備を行った

 ERPを導入する際、各部門は現行の業務フローに影響が及ぶことを避けたがる傾向が強い。しかし、現状の業務フローに合わせることを重視し過ぎて無理なカスタマイズを行うとそれが後々になって大きな障害となることがある。

 A社の場合もマスターデータ整備をせず、部門ごとに異なるIDを変換する処理をカスタマイズで加えていたら、「受注/調達/生産/在庫の各状況は全ての部門担当者に開示」という仕様を実現する際の工数が大きく膨らんでいた可能性が高い。というのも、1つの製品の製造状況について部門を跨って状況を把握するという処理であるため、異なるIDのマッチング処理があらゆる箇所に点在してしまうことになるからである。それが実現できなければ、営業部門担当者は以前と同様に勘と経験に基づいた納期回答をせざるを得なくなり、結果的に安全のために在庫を多めに確保するという従来と同じ結果をたどっていたに違いない。

 このようにERP導入前に自社に内在している業務フロー上の問題点を解消しておくことが非常に重要なのである。

  • 成功要因2 すべてを機械任せにせず、現場の判断力を尊重する業務フローを選択した

 過去に各担当者の勘と経験に基づく業務スタイルを行っているユーザーほど、ERP導入後には発注処理などをERPの機械的な判断に任せたがる傾向が強い。確かに厳密な生産計画や所要量計算に基づいた発注処理は信頼性が高いかもしれない。

 しかし、機械的な処理だけでは競争力につながる納期短縮を達成することは難しい。A社の場合は確定受注だけでなく、内示受注も生産/調達部門に開示することで、将来の受注も見越した調達処理を行えるようになった。当然、内示受注分も含めた発注を行うことはリスクを伴うが、そこは現場の判断力を尊重し、先行しての発注処理を認めたわけである。

 営業部門における納期回答についても、担当者に可能な限りの情報を与えることが正しい納期回答が得る最善の方法と考えたわけである。100%確実な情報を基にしたのでは現実の厳しい納期短縮要求には応えられないため、各部門担当者は独自の勘と経験で対処しようとする。それならば、業務の途中経過も含めた可能な限りの情報を開示して、各担当者の判断精度を上げることで企業全体としての判断力を高めようという発想である。現場を信頼するというこの考え方は、ERP導入における各担当者の心理的障壁を下げるという効果もある。

  • 成功要因3 ERPの機能を適切に活用する

 上記のように各担当者の判断力を尊重する一方で、ERPならではの機能をきちんと活用することも重要である。A社の既存生産管理システムでは、ある製品の製造に必要な調達部品を容易に特定できなかった。導入したERPに備わっていた調達シミュレーション機能を利用することで、生産計画を実行する前に必要な調達部品を容易に把握することができるようになり、調達部門の業務効率が大幅に改善した。

 このようにERPが得意とする部分については、その機能を最大限に活用することも重要なポイントである。ERP導入前に部門間のマスターデータIDをきちんと統一したことがこの前提にあったことは言うまでもない。A社の事例を見てみると、単にERPの持つ機能をフル活用するだけでなく、「自社業務フローの問題解決」「現場担当者を信頼したERP導入プラン」といった自社そのものをしっかりと見つめた施策を労を惜しまず打っていることが分かる。ERP導入に限ったことではないかもしれないが、このようにERPがカバーしきれない自社の業務フローそのものの問題解決や現場担当者への配慮ができるかどうかが成功するかどうかの1つの分かれ目といえるだろう。

 「ERP導入は単なるパッケージ導入ではなく、業務改革であると考えよ」というのは良く言われることであるが、まさにそれを示した具体例といえる。

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