中堅中小企業の経営基盤改革術

報酬制度で競争力を高める人事戦略コンサルタントの提言(3/7 ページ)

» 2008年07月17日 13時00分 公開
[吉岡利之, 池谷和之,ベリングポイント]

支給の性格

 

 最初のポイントは労働の対価としての金銭報酬か、その結果として事業の利益配分としての金銭報酬かという点である。労働対価というものは固定であれ、変動であれコストとしてとらえられるべきものである。経営者としては業績と関係なく、支払わねばならないものであり、従業員にとっては最低限の保障となる。

 一方の利益配分は、考え方としては、これらのコストを差し引いた結果の利益を、株主と会社との間でいかに分け合うかという検討の結果でてくるものである。業績連動賞与やストックオプションがこれにあたる。株式会社の利益は、株主に配分するか、再投資に回すかということが基本であるので、人的資源への再投資と見ることもできる。まずは、この2種の報酬をどの程度の配分(比率)にするかを決める。

 従業員への報酬は労働対価型が基本である。最近は人件費コスト圧縮を目的として、利益配分型の比率を高める企業が多くなってきているが、それは労働対価と利益配分という異なる性格のものを混同しており、従業員へメッセージが伝わりにくい。利益配分型報酬はいわば“おまけ“だということを明確にすべきである。

 利益配分型がうまくいくポイントは経営の透明性にある。業績が悪い時に払われないというからには、良い場合にはそれ相応の支払いがなければ従業員の納得は得られない。非公開で、しかも経営者=株主というケースが多い中堅中小企業において充分な情報公開ができるか、株主との間の利益分配をきちんと説明できるか、経営者には大きな覚悟が求められる。

支給レンジ

 次は、支給レンジ、金銭報酬を受注や製造量等の短期的に変動するものと結びつけて支給する(変動型)か、能力や担当職務など中長期的なレンジで変わっていくものと結びつける(固定型)かを決める。一般に従業員から見て、前者の比率が高い場合はハイリスク・ハイリターン、後者が高い場合にはローリスク・ローリターン型の制度となる。

支給基準

 最後は、その金額を決定するための基準を決める。能力や成果等、何に対して報酬を支払うのかという点である。基準は大きく、能力や行動特性(コンピテンシー)、年功、勤続年数などの人に対するもの(人基準)と、職務、職責など担っている仕事に対するもの(仕事基準)に二分される。受注や製造量によって金額が変わる前述の変動型は、基本的に仕事基準と見ることができる。利益分配については、年令によって差をつける場合は人基準、目標達成の度合によって決める場合は仕事基準ということになる。基準は報酬のメッセージ性が最も強く現れる点であり、次回に述べる評価と合わせ各種リワードの中でも、従業員の意識、行動に大きな影響を与える要素である。

 これらの組み合わせは無数にあり、それだからこそ各企業に合った制度とすることができる。次に企業特性にこれらを組み合わせ具体的な適用事例を見てみよう。

オススメ関連記事 -PR-

SAP改革をトップに説き伏せる方法

アメニティーズは長野県を中心に17店舗のパチンコ店を展開する。競合他社もあり楽観できない経営環境だった。遊技台はデジタル化が進む中で、個別の遊戯台に掛かるコストを低減し、利益を増やし、遊技台の「労働生産性」を高める工夫が必要だ。バラバラだった同社のITをSAPで最適化する取り組みを開始した。


至れり尽くせりのシステムを捨てた――TOMOEGAWAの勝算

TOMOEGAWAは日本における産業用特殊紙のパイオニア。最近では半導体関連製品など先端分野の材料も開発する。同社はSAP ERPにより、ビジネススピードを飛躍的に向上させたという。「至れり尽くせり」で「つぎはぎだらけ」だったシステムをどのように刷新したのか。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ