大企業の営業で一番大切なことは、「職場を円滑に回す」動きを心掛けることだ。自社技術の習得や顧客企業への提案活動など、営業職としてのいしずえを築くためのスキルは、当然身につけていかなければならない。だが、これと同じくらい大切なことがある。
それは、飲み会のアレンジや上司、先輩社員からの依頼などを大切な業務として認識することだ。こうした業務に懸命に取り組み、その報酬として業務内容のレクチャーや教育を受け取っていると考える。こうした謙虚さを3年間で身につけておくことで、その後の仕事の幅が広がっていく。
メーカー系システムインテグレーターに勤務していた時のことだ。大規模製造業のルート営業で対象となる顧客を拡大することをテーマにした会議があり、上司から「何か意見はないか」と呼び掛けられた。わたしは「この顧客だけで数字が足りないならば、積極的にグループ企業を新規開拓してはどうか」と意見を出した。
すると上司から同僚までみんなが顔面蒼白になり、会議の場は一気に凍りついた。上司はその理由をこう言い切った。
「顧客のグループ企業への新規開拓は両社の規約によって禁止されている。過去のいきさつやルールを理解せずに意見を出しても、会議の妨げになるだけだ」
挙げ句の果てには「お前の仕事は意見を出す事ではなく、出された意見を記録する議事録係だ」と叱責を受けてしまった。
思いつきで発言をした結果、わたしは「周辺状況が理解できていない」というレッテルを張られてしまった。結果、危険な発言を防止するために、1カ月もの間、送信するすべての電子メールの内容を事前にプリントアウトして、上司にチェックをしてもらわなけばいけなくなった。
こうした誤解は、議事録係に従事することで自然と理解できたのではないか。議事録を取る事で会議、ひいては所属する組織の歴史を学ぶことにつながる。上司の指示通りに動けば、たとえ失敗をしても守ってくれる文化であったことが、そう考える理由だ。
生意気なことを言い、時には指示を守らずに怒られる……。こうした経験を繰り返すことで、わたしにはいつしか「雑務は新人の立派な仕事だ」という考えが身についていた。そしてこれが成功に結びついた経験もある。社内旅行の幹事を務めた時の話だ。
幹事を務める以上は滞りのない行程の旅行にしようとしていた。スケジュールの進行を詳細に理解し、パンフレットに記載されている名所をきちんと案内できるよう、休日に旅行地を事前訪問しておいた。
こうした「仕込み」が奏功し、旅行当日「○○はどこにあるのか」といった質問にも確実に返答できた。上司からも「一人前になってきたな」と声をかけられ、ようやく社会人として評価を受けることができた。
大企業の営業職は慣習や前例の多さ、扱う商談の大きさから、独り立ちするまでに時間がかかる。だからこそ、本業の成果だけで自分を主張するのではなく「新人として、チームの一員として自分ができる事」を考え、業務に直結しないことも仕事と認識して取り組もう。こうした姿勢が自分の存在価値になり、評価に結びついてくる。
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