富士通が考えるクラウド・イノベーションWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年05月07日 06時37分 公開
[松岡功ITmedia]
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クラウドサービスで提供される価値とは

 では、トラステッドなクラウドサービスで提供される価値とはどのようなものか。ここは利用する側も押さえておきたいポイントである。

 富田氏はこれに対し、「一言でいえば、イノベーションを支える価値創造型のICT基盤を活用できること」としたうえで、次の4点に紐解いて説明した。

 まず1つ目は、自社でICTインフラを極力、所有・運用することなく、必要な時に必要な分だけのICTを活用できることだ。仮想化プラットフォームによって、例えば開発環境は小規模で始めて、本番環境では実際の規模にシームレスに拡大していくといったことが、容易に可能となる。料金は利用した分だけ支払えばよく、コスト削減につながる。

 2つ目は、新規開発、業務改善のためのアプリケーション開発を迅速・低コストに行えることだ。この点について富士通は、ユーザーの開発に必要な機能を標準部品化し、仮想アプライアンス(VA)またはサービスとして提供していくとしている。これによって、ユーザーは開発工数を大幅に削減し、競争力を生み出すアプリケーション開発に集中することができるようになる。

 3つ目は、意識しなくても安心・安全に使え、グリーン化に対応し、運用状況の見える化ができることだ。安心・安全では、セキュアな仮想マシン(VM)、統合監視、端末の認証・認可、ファシリティのセキュリティ対策、仮想環境下での性能の見える化を行うダッシュボード、またグリーン化では、シミュレーション技術によるデータセンター冷却の効率化などにおいて、富士通の技術やノウハウを生かすことができるという。

 そして4つ目は、企業ユーザーや現場とのコミュニケーション・コラボレーションを容易にし、フィールド・イノベーションを加速することだ。富田氏によると、トラステッドなクラウド上には金融、製造、流通、医療、行政、放送、通信、交通、教育、防犯など、あらゆるフィールドが存在し、それらがアプリケーションやセンサー・デバイスの連携によってさまざまなコミュニケーション・コラボレーションを起こすことで、フィールド・イノベーションを一層加速することができるというのが、富士通の考え方である。

 つまり、クラウド化がフィールド・イノベーションを加速する。富士通の立場で言い換えれば「トラステッドなクラウドサービスを提供することで、フィールド・イノベーションを一層推進することができる」(富田氏)わけだ。これは同社ならではのクラウドに対するビジョンといえる。

 フィールド・イノベーションは、富士通が一昨年から本格的に展開している戦略事業である。狙いは、フィールドの構成要素である人とプロセスとICTを「見える化」することによって、改善のさまざまなアイデアを引き出し、改善を続けていくことでビジネスにイノベーションを起こしていくことにある。

 その背景には、「ビジネスはICTだけではなく、人やプロセスが一体となって支えている。したがって、ICTの機能や性能だけをいくら追求しても、ビジネスの課題は解決しない」(黒川博昭前社長)という基本認識がある。

 富士通は今回、このフィールド・イノベーションとクラウドサービスの関連性を明確にした。ここをさらに「深耕」すれば、もっと斬新なアイデアが生まれそうな気がする。単純な掛け合わせの言葉で恐縮だが、同社の今後の「クラウド・イノベーション」に大いに期待したい。

プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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