「有望だが難しい市場」に向け新製品、新チームで挑む――デル公共市場向け戦略(2/2 ページ)

» 2009年05月22日 19時17分 公開
[大西高弘,ITmedia]
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甘くはない市場環境をどうとらえるか

 ただし、国内の教育市場はそう甘くない。補正予算という「恵みの雨」が自然と業績を伸ばしてくれるわけでもない。組織を製品カットから、ユーザーカットに切り替え、特定市場専用の製品を送り出したデルの戦略は今回見事なタイミングだった。しかしすぐに全国の小学校や中学校、高校で生徒1人に1台の専用PCを配布するわけでもないし、電子黒板が各教室に1台用意されるわけでもない。多くの学校ではまだ「PC教室」といった場所が用意されて、30台程度のPCを使って授業をするというのが現実だろう。

米国市場でのネットブック(ミニノートPC)とノートPCの市場占有率の推移予測(IDC調査を基にしたデルの予測数値)

 従って、前出の垂見マネージャが説明した、米国の教育市場で予測されるようなネットブックの販売台数の推移が、日本でも起こるとは単純には考えにくい。この疑問を北アジア地域 公共事業マーケティング本部の常松正樹本部長にぶつけてみた。

 「確かに、米国などの教育市場とは違った要素を持っています。まだPCルームを作りましたという段階の学校が多いのではないでしょうか。すべての学校ではないにしても、トータルなIT環境に関するビジョンがまだ見えていない状況かもしれません。ただし今後は予算ありきではなく、ビジョン優先でIT導入を考える教育機関が増えていくと思います。これは、官公庁、医療機関も同様でしょう。そうした中では、当社はユーザーカットでマーケティングをしていく体制を整えているので、いろいろな提案をしていけると思います」(常松本部長)

 デルの国内市場でのシェアは、PCとIAサーバ合わせたもので、教育機関、官公庁、医療分野でそれそれ3位。上には大手国内ベンダーがいる。この牙城について常松氏は次のように語る。

 「競合する企業をウォッチしていないわけではないが、提案力の勝負、となれば、まずはデルならどんなことができるかが課題になる。なかなかIT環境の将来像を描けないユーザーに対して、コネクテッドクラスルームというコンセプトに重点を置いてアプローチしていきたい」

パートナー戦略と用途開発の両輪を回せ

 また、井村英三シニア プログラム マネージャーは、今回発表された製品そのものの強みについて次のよう強調した。

 「Dell Latitude 2100は、セキュリティについて特に厳しい目を持つ、公共分野のユーザーにも納得していただける機能を豊富に持っている。トータルな提案力は製品そのものが持つポテンシャルに大きく左右されるはずだ」

 いずれにしても、有望だがやすやすとシェアを獲得することは難しいこの市場に対しては、あらゆる側面からのアピールが必要になってくるのだろう。ネットブック単体の販売台数だけを追いかけていてもダメで、そこから、トータルのソリューションを含めてどう売っていくかが今後の鍵となる。教育分野で言えば、ITを活用した教育体制で特長を出したい学校法人などへの提案を強化し、実績を積み上げていきたいというところだろう。

 また、販売方法については各セグメントで強みを持つSIerなどのパートナーの存在も重要だ。「デルが単独で関連ソリューションも含めた案件で入札に参加したり、セールスを展開していくこともあるが、同時にパートナーと連携して動くことも多い。エデュケーション分野は特に柔軟な対応力が必要。ユーザーカットで物を考えると同時に、地域ブロックや価格といった切り口で改めて戦略を練る場面もある。いずれにしてもパートナーとの関係強化は今後も継続的に取り組んでいく」と常松氏は語った。

 市場に切り込んでいく時、機能面、価格面ともに充実した製品を用意していても、その市場にいるユーザー自身が必要な用途を明確に持てないケースがある。要するに必ずしも「打てば響く」市場環境とは言えないケースだ。その場合は供給する側が用途を作り出し、市場に刺激を与える戦略が重要になってくる。そのためにも足がかりになるような土台が欲しいところ。市場の中のさらに細かいセグメントで実績を積み上げる必要がある。いきなり小学校から中学、高校、大学、専門学校にいたるまで全方位で実績を重ねていくことは難しい。

 デルにとってその足がかりは、大学および関連研究機関になる。この分野で同社は旧帝大系の大学、研究所などを始めとした教育機関で豊富な実績を持っている。常松氏も「現在も、ある大学がグローバルな研究プロジェクトに参加するということで引き合いが来ている。ネットブックについても大学などでは具体的な用途がこれからも出てくる可能性がある。例えば、図書館などに一定の台数を置き、学生に貸し出して、調べ物や学習に役立ててもらうといったことも利用シーンとして有望なのではないか。そうしたところからネットブックの利便性、安全性を実感してもらい、さらに利用台数を拡大してシンクライアントなどとして活用するインフラを構築する提案をしていきたい」と話す。

 厳しい経営環境の中、オアシスとも思える安定的な市場で確実に利益を得ることは、今後ますます重点課題となる。しかしオアシスの恩恵を狙う企業は多い。機能と価格両面のメリット、そして用途を積極的に開発し「打てば響く」市場に変えていく力が必要だ。そうした意味で、デルは不況をチャンスに変える戦略を実行に移し始めたといえるだろう。

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