日本企業が海外展開のスピードを速めている。鍵を握るのがアジアで、特に中国への関心が高い。13億の人口を抱え所得増が期待される。中国ビジネスをよく知る元大手商社担当者、ソニーの中国法人社長への取材を通じて、中国市場攻略の糸口を探る。
日本企業が海外展開を強化するニュースが増えている。合計特殊出生率が1.38%程度に低迷し、少子化を止める策が見つからない中、日本は2005年から人口減少社会に突入した。国立社会保障・人口問題研究所は、2055年の日本の予想人口を8993万人としている。現在よりもおおよそ3割近くも少ない数字だ。この数字1つだけでも、企業の成長の先行きが深刻であることがはっきり分かる。
日本の製造業は戦後活発に海外展開を実施してきた。自動車、電子機器、ゲームなどいまも世界をリードしている。だが、ここにきて、これまで海外展開とは無縁だった内需関連企業も世界を目指す傾向が明確になってきた。三井不動産は、中国の不動産市場に本格進出し、2011年をめどに現地企業と組んで商業施設を開業すると報じられた。オンラインショップを運営する楽天の三木谷浩史社長も、台湾やタイへの進出を決め、中国を重要マーケットと位置付けていることを明らかにしている。
こうした例から分かる通り、現在の日本企業による海外展開の鍵を握るのは、アジア市場の獲得といえる。経済成長を続け、平均所得の増加が見込める中国、インド、インドネシアなどの国内需要を取り込めれば、少子化という逆風を跳ね返し、成長を続けることができるからだ。
ここでは、「世界の工場」として特に注目を集め、日本企業との関係も非常に深い中国に焦点を絞り、同市場攻略のヒントを探してみたい。
大手商社の三菱商事で30年にわたり、機械やプラント、コンビニエンスストアの誘致などの形で中国ビジネスを手掛けてきた武田勝年氏は「技術、価格、サービスなどのうち、どこに自社の優位性があるかを見極めなければ中国での成功は100%ない」と断言する。「市場のパイが広いから行くだけでもうかる」という甘い考えは通用しないそうだ。
武田氏は、中国進出する企業に「現地企業と合弁会社を組むな」と忠告する。中国企業とは仕事の進め方、文化が大きく異なるため、真意が伝わらないことも多く、あらゆる面でスピードが遅くなるというのが理由だ。例外は、中国政府が規制をかけている業種など。保険業や広告関連など、中国企業の資本が一定割合以上含まれていなければ事業が始められないケースがある。ちなみに、中国でビジネスを始める場合の政府による制限などは、軍事や通信など国策にかかわる特定の業種以外は「実際にはそれほど窮屈ではない」としている。
中国は「社会主義市場経済」という矛盾をはらんでいるようにも見える経済体制を取っているが「実態は通常の市場経済に近い」(同氏)。
もう1つの忠告は「中国支社のトップには会社としても最も信頼できる人を据えるべき」ということ。中国人は見る目が鋭く、例えば「中国支社長」であるのに意思決定をいつも日本の本社に電話で問い合わせたりする姿を見せてしまうと、社員がその支社長を相手にしなくなるそうだ。成功の第一歩はこうした中国人の気質を理解することともいえる。
中国における成功企業として有名な資生堂も、現地の人々の嗜好を理解した上で、コストを抑えた中国専用ブランド「オプレ」を大ヒットさせている上に、日本を旅行で訪れた中国人女性が非常に高額な資生堂商品を買い込むという循環を生み出した。
中国展開で問題になるのは大きく「お金を払ってもらえるか」「中国人社員の教育」の2つだという。実際に、取引をした中国企業がお金を払おうとしないケースが多い。対策は「支払わない会社とは取引をやめる」こと以外にないという。中国に進出している大手自転車メーカーは、代金を受け取ってから出荷する前金制の採用によって、この問題をクリアしているという。
もう1つの課題が教育だ。「中国に日本人社員が行くと、コストが高い、働きが悪い」という現実があるという。中国語や文化といった壁によるコミュニケーションギャップの存在は否定できないそうだ。「できるだけ中国の人を使った方がいい」――武田氏の結論だ。その際、理解しておくべきことは中国人の価値観についてだという。
「人と人との関係が法律より重要だと思っている中国人は多い」(同氏)
何か壁にぶつかったとしても、強い信頼関係を持つ中国人を持っていれば、「抜け穴」を教えてくれるのだ。中国語で「カーメン」(仲間、きょうだい)といったニュアンスで呼び合える関係になれれば心強いと武田氏は教えてくれる。
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