ここからは、ウィジェットマーケティングの成功事例を見ていきたい。ロケットカンパニーはブログパーツ(ウィジェット)を用いたWebプロモーションを取り入れ、ゲームソフト「漢検DS」の売り上げを65万本にまで伸ばした。
Webプロモーションの目的は、漢検DSの認知度を拡大すること。ブログパーツを一人でも多くの消費者に配布することを視野に入れ、次の3つの要素を取り入れたブログパーツを意識的に作成した。
また、ブログパーツを消費者に届けるための「環境作り」に注力している点も独特だ。12月12日の「漢字の日」に合わせて、「日本人の漢字力低下」というニュースリリースを配信。タイムリーな情報と漢検DSの特性が伝わり、テレビや新聞など40のメディアが記事やニュースとしてこの発表を取り上げた。
一連のWebプロモーション活動は、「漢字力」という言葉に対する消費者の意識を高めさせた。この活動が呼び水になり、漢検DSのブログパーツは徐々にブロガーに認知されていった。そして関連するブログ記事が多数執筆され、「漢字力」は口コミで一気に広がった。
結果としてこのプロモーションの効果は、(1)関連するブログ記事を1万人以上が執筆、(2)ブログパーツの総露出数は8000万インプレッション、(3)ブログパーツ経由で漢検DSのゲームを15万人以上が体験――という数字(『出典:コミュニケーションをデザインするための本』)が証明する。
そして漢検DSは、65万本を売り上げるヒット作になった。ブログパーツ単体だけでなく、メディアを巻き込んだWebプロモーション活動が奏功したからだ。ブログパーツの利用者が増え、口コミでさらに情報が拡散していく。ロケットカンパニーの取り組みは、「消費者による自律的な情報流通網の構築」へとつながっていった。もちろん、成功の裏には簡単にゲームを体験・参加できる手軽さと、競争心をあおり結果を他人と共有したくなるコンテンツ(ブログパーツ)の特性や、個人のタッチポイントになるウィジェットの独特さが影響している。
ウィジェットマーケティングで陥りがちなのは、ウィジェットのコンテンツ作成に力を注ぐ半面、それを配布するための施策を十分に練らないことだ。漢検DSのブログパーツの完成度は高かったが、それを個人に広めるための情報流通網の構築にまで目を配ったことが、成功の要因だといえる。
とはいえ、ほかの企業がこのウィジェットマーケティングそのまま横展開しても、売り上げ増には結び付かない。消費者に届けたいメッセージやサービスの内容によって、その都度戦略を練っていくのがウィジェットマーケティングの肝だ。次回はウィジェットマーケティングを成功に導く「核」の要素を説明したい。
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2001年にソニーに入社。2005年に社内の有志数人で「新しいネットメディアの開発」をコンセプトに、ウィジェットサービス「FLO:Q(フローク)」プロジェクトを発足。現在、サービス全体で約20万人の登録会員を抱えるサービスに育て上げた。最近では新たなウィジェットのプラットフォームとしてmixiを活用した「mixiアプリ」をリリースしている。
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