デスクトップ仮想化の震源地に――シトリックスの戦略

シトリックスは2010年が「デスクトップ仮想化元年」になるとみて、大胆な営業戦術で臨もうとしている。1月に副社長として入社した木村氏の手腕が注目される。

» 2010年03月03日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 シトリックス・システムズ・ジャパンが2月末に開催した、2010年の戦略発表会。ここで同社は2010年を「デスクトップ仮想化元年」ととらえ、デスクトップ仮想化の展開に注力することを明らかにした。

マイケル・キング代表取締役社長 エンタープライズコンピューティングにコンシューマライゼーションの波が押し寄せているとキング氏

 シトリックスのマイケル・キング代表取締役社長の言葉を借りれば、この動きは「コンシューマライゼーション」の流れに沿ったものだ。今日、FacebookTwitterといったコンシューマーWebの勢いを否定する者は少ないが、こうしたコンシューマーWeb発の技術を取り込む形で進化しているのが、最新のエンタープライズコンピューティングである。

 こうしたコンシューマライゼーションを推進しようとしているのは、何もシトリックスだけではない。例えばSalesforce.comは、「Salesforce Chatter」を2009年に発表し、社内のすべての社員やアプリケーションをリアルタイムフィードでつなげ、これまでにないエンタープライズコミュニケーションを提供しようとしている。また、GoogleもGoogle BuzzGoogle Appsで提供すれば、Chatterに比肩するようなサービスへと成長させることができるかもしれない。このように、コンシューマーWebのサービスを企業に取り入れようとする試みは各社の共通戦略となっている。

 シトリックスに話を戻すと、同社はコンシューマライゼーションによって2010年は「デスクトップ仮想化」の流れが加速すると考えている。これまで同社は、ITをサービスと捉え、それをいかに効率的にデリバーするかに注力してきた。その意味では、最適なデスクトップ環境をデリバーしようとする「デスクトップ仮想化」も、オンデマンドサービスとしてITを提供するという同社の基本的な戦略の延長線上に存在しているといえる。

XenAppからのアップセルが1つの鍵に

木村裕之氏 数々の営業戦略を説明する木村氏。その手腕に注目したい

 分散と集中を繰り返すIT業界において、クラウドコンピューティングは集中の時代に属すると考えられる。この時代ではデスクトップ仮想化が有望な市場になると見ている同社だが、そのための営業戦術も注目される。要となるのが、2010年1月に入社した木村裕之氏だ。シマンテックの会長やセールスフォースの執行役員副社長などを歴任した同氏の口からは、上流工程に関するコンサルティングを提供するなど幾つかの営業戦術が紹介されたが、注目したいのは、XenAppからのアップセルだ。

 SaaSの浸透などもあり、多くのアプリケーションがブラウザ経由で使えるようになっている昨今、アプリケーションの仮想化を図るXenAppの売り上げが今後大きく伸びるとは考えにくい。わざわざMicrosoft OfficeをXenAppでデリバーしなくても、例えばGoogle Docsなどの選択肢が存在するからだ。SaaSで提供されるアプリケーションが増えれば、長期的にはXenAppによるアプリケーションの仮想化は、特殊なアプリケーション、あるいは無駄なポートを開けられないような場合でのみ採用されるポイントソリューションとなる。XenDesktop 4でXenAppの機能が統合されたことも、XenAppの売り上げが今後伸びないと考えられる一因だ。

 これまでCitrixの売り上げの多くを占めていたのがXenAppであるのは揺るぎようのない事実だが、すでに米国ではXenDesktopの売り上げが急成長しており、XenAppは相対的に売り上げを下げている。日本でもXenAppは累計で100万ユーザーライセンスを突破しているが、今後は米国と同様の市場、つまりデスクトップ仮想化が同社の売り上げを形作っていくとみられる。

 木村氏が説明したトレードアッププログラムは、XenApp導入顧客向けのプログラムで、XenAppの同時使用ユーザーライセンスを、2倍の数のXenDektopユーザーライセンスに交換できるというもの。すでに100万規模でライセンスされているXenAppだけに、この施策によるアップセルがどの程度浸透するかは、日本におけるデスクトップ仮想化の普及を図る1つのバロメーターとなるだろう。

 この戦術の背景には、「全社レベル」でデスクトップ仮想化を導入してもらいたいという同社の思惑が見て取れる。XenAppはその多くが部門レベルでの導入にとどまっていたが、トレードアッププログラムで2倍のXenDesktopライセンスを付与することで、一気に全社レベルでデスクトップの仮想化を導入してみませんか、というのが同社の売り文句だ。木村氏はこれを「部門ごとの最適化に閉口している企業をスピード感ある企業に」と評した。

 木村氏は、このための営業体制も充実させると話す。現在10人に満たない営業部隊を3倍に増強、従来のハイタッチ営業だけでなく、産業別で約200社をターゲットとして営業を進めるという。また、この発表会に先立って発表されたNTTデータとの協業などにみられるよう、SIerとのパートナービジネスも強化する姿勢だ。

 「“部門単位から全社展開”になるため、技術的に難しいところにSIビジネスの生きる道があると考えている」(木村氏)

シトリックスのデスクトップ仮想化は生産性と機動性を両立できるか

 同社がデスクトップ仮想化で自信を見せるのは、先に述べたとおり、デスクトップ仮想化が同社の基本的な戦略の延長線上に存在しており、矛盾なく提案できるからである。むしろ、HDX技術やNetScaler、XenServerなど、データセンターからエンドポイントデバイスまで効率よく仮想化できる同社の製品技術群がよいハロー効果を生み、デスクトップ仮想化に対する顧客の不安を解消していくことは想像に難くない。

 シトリックスはこうした変化を「デスクトップイノベーション」と呼ぶが、その肝となるのは「生産性で妥協することなく、機動性を提供できるかどうか」にある。単にデスクトップ仮想化をうたうだけでなく、エンドポイントデバイスの多様性に対してリモートデスクトップクライアントである「Receiver」を用意するなど、コンシューマライゼーションの波をうまく読んでいる同社。デスクトップ仮想化を“目的”とするのではなく、あくまでもオンデマンドサービスを提供する“手段”ととらえている。

 木村氏は、こうした施策によって、2010年の後半に“爆発的な”伸びがあるだろうと予測する。創業から21年目を迎えたCitrixが提供するデスクトップ仮想化がワークスタイルをどう変化させるか注目したい。



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