プライベートクラウドは企業IT刷新の“真打”になるか――楽でセキュアでコスト削減を目指す

老舗の商社、オフコン時代から続く情報化をクラウドとして開花させる導入事例

有数の社格を誇る熱田神宮――その程近くに本社を構える三立興産は、老舗の商社だ。オフコン時代から情報化への投資を進め、ここに来てクラウド化の基盤を整えつつあるという。

» 2010年04月02日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 三種の神器として数えられる天叢雲剣を神体とする熱田神宮。そのほど近くに本社を構える三立興産は、トヨタ自動車や本田技研、デンソー、そして三菱グループなど中京地域の企業群を主な相手に、工作機械や自動組み立て機を提供する直需商社である。

 1946年の創業以来、66度目の事業年度を迎える現在では、国内各地域はもとより米国シカゴや、上海、タイに拠点を置くまでに事業を拡大。併せて日本を代表する大企業と日々の取引を行うことから、ビジネスコミュニケーションの円滑化と迅速化には、早くから取り組みを進めてきたという。

 「受発注、売り掛け、買い掛けといった処理に必要な帳票の管理を効率化するため、当時オフコンであるIBM System/38を導入しました」と振り返るのは、同社の総務管財本部を統括する近藤寧延 執行役員。それは今から25年ほどさかのぼる、インターネットが実用化されるはるか前のこと。ITといった用語も存在せず、オフィスオートメーション――すなわちOA化と表現していた頃の話だ。

 その後同社では、オフコンを同じIBM製のAS/400に移行したり、OS/2を搭載したマシンでNotesを運用したりするなど情報化を推し進めていったが、1995年になってあるトレンドが訪れる。そう、Windows95の発売と、それに伴うインターネットの爆発的な普及である。

情報化への投資が、競合他社との差別化につながる

三立興産の近藤寧延 執行役員。社章の由来について、「火鉢の“鼎”がモチーフ。3人のメンバーにより創業されたため、その団結力を象徴しています」と紹介してくれた。さながら日本版「三銃士」というところか――

 「早くから情報化を推進することは、顧客企業にとって“取引しやすい会社”であることにつながります。つまり、競合他社に対し、三立興産を差別化するポイントにもなっていたのです」と近藤氏は話す。

 特にトヨタでは、従来から「かんばん方式」といわれる生産管理手法が確立していた。これは製造ラインの部材について“必要なものを、必要なときに、必要なだけ”調達・供給し“ムダ、ムラ、ムリ”をなくす、という思想に基づいた方式であり、「ジャストインタイム生産システム」とも呼ばれる。

 生産管理手法であるため、基本的には製造ライン管理のためのものだが、三立興産が扱う工作機械群もトヨタにとっては製造ラインを構成する部材である以上、それを三立興産から調達する際にも、かんばん方式が適用される。「工具や工作機械補用部品の在庫管理を徹底しつつ、需要に対しては迅速に供給できる体制を整えること。つまり情報化により細かな出入庫に対応していくことが、三立興産の企業体力強化につながっていました」と近藤氏は振り返る。「難題だとしても、その要望に応えるのが、当たり前のことですから」(近藤氏)

 このような背景から三立興産では、“Windows95ブーム”への対応も早かった。1996年にかけて、全社員に1台ずつ、PCを支給したのである。


 現在のNetbookのような、安価なPCが普及していたわけではない当時、“パソコンを買う”といえば1台数十万円掛かるのが当たり前。ラップトップ型ともなれば、50万円するものも珍しくない時代である。情報通信部 EDP-ROOM(EDPはElectronic Data Processingの略。つまり電算室の意)の神谷久 課長は「語弊を恐れずに言うと――とてもうれしかった、というのが正直なところでしょうか」と振り返る。

 当初は9600bpsの専用線を主に利用し、主としてコスト削減の目的からISDNなどの導入も進めた。そして2003年にはIP-VPN、ワイドイーサ網へ移行。2005年になると、ブロードバンド化の波に乗る形で帯域を強化した。選択した接続網は、インターネットVPNサービスであるbit-driveのVPNソリューションパック。インターネット接続サービスとルータ(ヤマハのRTXシリーズ)のレンタル、導入サポート、保守サポートが組み合わされたもの。現在につながるソニーの法人向けインターネットサービスbit-driveとの出会いは、この時のことだ。

 帯域の強化に併せて三立興産では、社員、特に外回りの多い営業スタッフに対する利便性の確保にも配慮した。折しも情報漏えい対策が注目を集めていた時期でもあり、インターネットVPN環境への社外からのアクセスを可能とするため、bit-driveが提供するセキュアリモートアクセス“CRYP(クリプ:FeliCa方式のICカードで認証し、VPN内へアクセスする仕組み。認証サーバとしてbit-driveのDigitalGateを利用する)”を導入したのである。

bit-driveが障害を未然に防止、安心感につながる

三立興産 情報通信部 EDP-ROOM 神谷久 課長

 以降、帯域、利便性ともに大幅に向上したという三立興産のネットワークだが、課題もあったという。「三立興産の拠点は、国内に14カ所。その全てにネットワーク技術者がいるわけではありません。本社である名古屋でネットワーク全体を運用していましたが、障害対応はもとより、設定変更などでも迅速な対応が難しいことがありました」と神谷氏は話す。ひとたびネットワークに障害が発生すると、複数の拠点から、ひっきりなしに電話が掛かってきてしまい、対応に手が付けられない、ということもあったという。

 そこで神谷氏は、CRYPと、インターネットVPNサービスの運用で実績のあったbit-driveへ相談を持ちかけた。既にbit-driveでは、同じインターネットVPNでもプライベートクラウド型のサービス「マネージドイントラネット」の提供を開始しており、コストやサービスレベルを比較した上で神谷氏は、社内の承認を得、導入を決意したという。

 新しいインフラが稼働したのは2009年の9月。従来は各拠点が縦割り型でネットワークに接続されていたが、マネージドイントラネット環境ではbit-driveのVPN網に集約され、接続する形になった。

 神谷氏が特に評価するのは、bit-driveの「マネージメントツール」である。これは各拠点に設置されたbit-driveのマネージドルータやネットワークを集中管理できるWebインタフェースのアプリケーション。以前利用していたVPNソリューションパックの場合、ヤマハ製ルータの設定を変更するには、bit-drive側に依頼する必要があったが、設定変更やその一括適用はもとより、CPUやネットワークなどの負荷状況も監視できるようになった。各拠点に電話しながら、あるいは直接出向いて運用業務を行う必要もなくなった。なお従来から継続して業務に利用しているAS/400については、マネージドイントラネットへの切り替えを経ても、まったく問題なく稼働しているという。

 「旧環境では、早朝に起きて、ネットワークに問題がないか接続し確認するのが日課になっていました。それだけ、ある種のストレスになっていたのでしょう。今でもその習慣は変わりませんが、安心感はまったく違います」と神谷氏は話す。ネットワーク自体の安定性についても、「障害らしい障害は、全くありません」(神谷氏)という。

 神谷氏は、自身が抱く“安心感”につながったエピソードを紹介する。「ソニーの技術スタッフが、朝の6時に開錠前の会社入り口で控えていたことがありました。事情を聞くと、ネットワーク機器の不調を検知したため、交換のために訪れたとのこと。彼らのおかげで、機材が本格的な障害を起こす前に交換できたのです」(神谷氏) これはbit-driveデータセンターが、24時間体制でサービス監視を行っているがために実現した、プロアクティブな対応と言えるだろう。


 「bit-driveにより、三立興産はプライベートクラウド構築の足掛かりを得ました」と話す神谷氏だが、同社は早くも、次なる展開を視野に入れているようだ。

 既にFeliCaを組み込んだ社員証と連動するbit-driveのサービス「インターネットタイムレコーダー」を利用している同社だが、セキュリティ関連のサービス、特にメールアーカイブWebコンテンツフィルタなどの利用も、検討を進めたいのだという。

 「2007年に、“セキュリティ管理規定”を定め、全社員が順守しています」と近藤氏は話す。だがセキュリティ対策は性善説だけでは成り立たないし、またセキュリティインシデントを起こさないだけでなく、顧客企業に対し“セキュリティインシデントは絶対に起きない体制であること”を証明できるか否かも重要である。

 「セキュリティ対策は守りだけでなく、企業競争力を強化する攻めの施策でもあると、理解しています。bit-driveのマネージドイントラネットにより、基盤は整いました。今後投資対効果を見極めつつ、具体的に検討していきます」(近藤氏)

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