21世紀の黄金郷、フロリダに現る――Smarter Planetの象徴的なアイコンにIBM Rational Innovate 2010 Report

IBMが提唱する「Smarter Planet」の目標、それは、デジタルなインフラと人間を含めた物理的なインフラのコンポーネント化、さらにそれらが融合した世界だ。そして、そのビジョンを具現化する都市がフロリダ南西部に生まれようとしている。

» 2010年07月31日 12時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「e-business」「on demand」――IT業界に詳しい方なら、これらのキーワードが過去にIBMが打ち出したコーポレートビジョンであることをご存じの方も多いだろう。これらのビジョンは、IBMがそれぞれの時代で、ITで何を成し遂げようとしているかを端的に示してきた。

 では、現在のIBMが打ち出しているコーポレートビジョンは何か? それが「Smarter Planet」である。IBMがこの新たなコーポレートビジョンを提唱してから1年半ほど経過したが、これらはどの程度、現実の世界に影響を与えているのだろうか。

 IBMが6月に米国オーランドで開催した「IBM Rational Innovate 2010」。初日の基調講演のテーマが、効率的なソフトウェアデリバリーのあり方であったのに対し、2日目の基調講演は、それを現実の世界でどう適用していくか、言い換えれば、「現実の世界でどうSmarter Planetを実現するか」にフォーカスが当てられた。

「概念も技術も分かる、しかし問題は『どうやって』行うのかだ」とイワタ氏は、都市計画をつかさどるリーダーたちの悩みを指摘。このような投資を正当化するためにはデータで示さなければならないと説く

 このテーマの適任者として壇上に上がったのは、IBMコミュニケーション&マーケティング担当上級副社長、ジョン・イワタ氏。尊敬の念を込めて「Smarter Planetの父」と呼ばれている同氏は、「この1年半、もっともよく耳にした質問は、『Smarter Planetは単なる宣伝文句ではないのか』というものだった」と明かす。しかし、Smarter Planetは技術に関する洞察であり、単なる概念ではなく、実際に実行されているのだと強調した。

 Smarter Planetは、デジタルなインフラと人間を含めた物理的なインフラのコンポーネント化、さらにそれらが融合した世界、つまりは「全体系」とでも表現すべきものをどう最適化していくかを指向したものだといえる。デジタルなインフラのコンポーネント化は、クラウドコンピューティングがその一翼を担っているが、これに加え、水、電力、交通網などのあらゆる物理的インフラがセンサーネットワークを通じて相互に影響を与える仕組み、IBMの言葉を借りれば「Systems of Systems」が生まれつつある。それらを融合した世界で最適化が図れれば、ソフトウェアで解決できる、あるいは単に看過されてきたさまざまな非効率や無駄が解消できることになる。

 イワタ氏は、これまでにSmarter Planetに関する460件もの事例を集めることができたと説明。例えばスマートな交通管理システムによる渋滞の低減や小売のサプライチェーン見直しによる在庫削減など、全体系を踏まえた最適化が実際に実現できているのだという。この動きを支援するために、IBMは、過去5年で70社以上を買収し、Smarter Planetを構築する要素を補完していったほか、向こう5年間で200億ドルの投資計画も立てている。

 イワタ氏は、Smarter Planetの実現に対するIBMの全方位的な取り組みを紹介しながら、「後から振り返ればエポックメイキングなことだったと思えるようになるかもしれない」と締めくくった。

フロリダにおける未来の都市、あるいは“生きた研究所”

「大きな目標を持ち、全体像を考えることで、大きなアイデアが生まれる」とキトソン氏

 イワタ氏の後に登壇したのはBabcock Ranchの会長兼CEO、シド・キトソン氏。日本ではあまり知られていないが、Babcock Ranchは都市開発を請け負う企業であり、キトソン氏は、Ubuntuの創始者であるマーク・シャトルワース氏と同様の実業家であるという説明を添えておけばよいだろう。

 キトソン氏は、20世紀の都市運営の例としてマンハッタンを挙げた。マンハッタンは、今でこそ高層ビルが建ち並び、世界経済の中心地ともいえるが、その都市計画の過程で、数多くの動植物を絶滅させ、さらに、深刻な環境汚染を引き起こしてしまったと話す。

 しかし、Smarter Planetが実現可能な現代では、都市計画にも別のアプローチがあるとキトソン氏。Babcock Ranchが現在取り組んでいるのは、マンハッタンの約4倍に相当する緑豊かな土地をフロリダ南西部に確保し、官民のパートナーシップにより、環境を保護しながら人類史上類をみないインテリジェントな都市を開発することだ。

エネルギー、水、交通、安全、教育、コミュニケーション――デジタルなインフラと人間を含めた物理的なインフラを融合させた都市がフロリダに誕生する日は近い

 この都市では、電気自動車の充電に必要な電力を含むすべでの電力を太陽光発電でまかなうという。また、スマートエナジーを生み出すだけでなく、それらをスマートデバイスを利用しながらスマートグリッドにつなげ、エネルギー、水、交通、安全、教育、コミュニケーションなど、すべてのコンポーネントを融合させたSmarter Cityを目指しているのだと述べた。当然、IBMも全面的に協力しており、Smarter Planetを具現化した象徴的なアイコンになることは間違いない。

 「たくさんのことをやろうとしているように思えるかもしれないが、これらは1つのシステムである。マンハッタンを20世紀最高の都市とするなら、21世紀最高の都市は、Smarter Planetのビジョンを徹底的に具現化したこの地だといえる」(キトソン氏)

 Babcock Ranchが手掛ける都市がいつ現実になるかは分からないが、より直感的にSmarter Planetを理解できる日も近そうだ。この日、IBM Researchの9番目となる研究施設をブラジルに開設することも明らかにされた。IBMにとっては12年ぶりの新たな研究施設だが、この研究所のフォーカスエリアがまさに「Smarter Planet」だ。

 IBMがこの地を選択したのは自明である。同国で2014年に開催されるサッカーワールドカップや2016年のオリンピックといったイベントでSmarter Planet、あるいはSmarter PlanetのためのSmarter Systemsの実証実験とアピールを行うためだ。クラウドコンピューティングがITサービスのデリバリーを変化させていることに世間が沸く中、IBMはITの可能性を拡張している。この流れは注視したい。

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