地球のあるべき姿を希求する「Smarter Planet」IBM環境シンポジウム2009 リポート

地球上にはさまざまな「エネルギーの無駄遣い」が起こっている。IBMはこれらをシステムやセンサーなどで管理し、効率のいいエネルギー消費の仕組みを作ろうとしている。

» 2009年06月17日 19時12分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 米IBMは2007年に全社で排出する二酸化炭素の量を1990年比で66%減らすなど、環境関連の事業活動を続けている。2008年には、全世界共通の方針として「Smarter Planet」と呼ぶ方針を打ち出した。その背後にあるのは、環境問題や資源の枯渇、食の安全などに対して、ITを使ってどう解決策を講じるかという問題意識だ。

 IT関連の技術が進化したことで、インターネットを介して人やモノが容易につながり、世の中のあらゆる分野のデータを集めて洞察する――といったことが実現できるようになった。電力や水を供給する社会インフラとこれらの技術を融合させることで、種々の社会的な問題の解決を目指すのが、Smarter Planetの大枠だ。

 日本IBMは6月16日、広島国際会議場で「IBM環境シンポジウム2009」を開催した。セッションに登壇した日本IBM 未来価値創造事業の岩野和生執行役員は、Smarter Planetの実現に向けたIBMの取り組みを紹介した。

「年間8兆円の無駄」を減らす次世代交通システム

 地球規模の課題として岩野氏が取り上げたのは、交通渋滞の問題だ。例えば米国のニューヨーク市では「タイムズスクエアなどでは、交通量の45%が駐車スペースを探している車」(岩野氏)だという。これをコストに換算すると年間8兆円、時間にして42時間、そして29億ガロンの石油の無駄遣いにつながっている。

 スウェーデンの首都のストックホルムでは、交通量と車から排出される二酸化炭素の削減を目指し、先手を打った。有線ネットワーク、監視カメラ、専用のゲートなどで構成した交通システムを作り、渋滞に応じて市内に入るための課金を実施する仕組みを作った。その結果、交通量が25%減り、公共交通機関の利用者は1日当たり4万人増えた。市内の排出ガスは実に14%も削減されたという。これらのシステムをIBMが統合し、運用までを手掛けている。

ストックホルム市の渋滞課金渋滞課金システムの概要 左が「ストックホルム市の渋滞課金」。右が「渋滞課金システムの概要」

スマートメーターで「賢い」エネルギー削減

image 日本IBM 未来価値創造事業 執行役員 岩野和生氏

 Smarter Planetの実現にとって、電力の削減も避けられないテーマだ。

 イタリアの大手電力会社のENELは、5年間で3000万世帯に「スマートメーター」と呼ぶ機器を設置した。これは通信および管理機能を持つ電力メーターシステムの総称で、ENELは各家庭の消費電力を15分ごとに収集している。世帯ごとの消費電力から、「ある家庭は夜中しか電力を使わない」といった利用形態を分析し、電力配給サービスの料金体系を柔軟に設定する。ピーク時間の電力消費量の削減にも着手し、ピーク時の電力消費量を5%削減する考えだ。これにより1000Mワット級の発電所2基分のエネルギーが減らせるとしている。

 316平方キロメートルの領土に約40万人が住む地中海の島国であるマルタ島でも、スマートメーターとセンサーネットワークを使った水や電気の管理が計画されている。マルタ島は世界で2番目の自動車密度(1平方キロ当たり660台の自動車がある)であり、「使用する水の50%を電気で淡水化している」(岩野氏)など、エネルギーの消費がかさんでいる。温室効果ガスは2012年までに1990年比で62%増加する見通しだ。

 IBMは25万台のスマートメーターを管理するインフラをマルタ島に敷き、エネルギー効率の改善を目指す。国レベルでの電力管理インフラの整備は、世界初の取り組みだ。こうした動きは日本でも起こり始めており、関西電力が通信機器を搭載した電力メーターの整備を進めている。

IBM自身も無駄を全面排除

エネルギー消費量の削減におけるIBMの取り組みの変遷 エネルギー消費量の削減におけるIBMの取り組みの変遷

 エネルギーの「無駄遣い」がはびこっているのは、情報産業も同じだ。データセンターを例に取ると、エネルギーの総使用量のうち、冷却に使われる割合は50%に上る。計算などの処理に使われるリソースはわずか3%で、分散計算環境では実に85%が使われていないのが実態だという。

 エネルギーを増やさずにデータセンターやIT機器の処理能力を向上させるため、IBMは社内の変革を進めている。データセンターやネットワークなどの統合を進め、IT投資の費用を過去5年間で4000億円減らした。これに伴い、年間50億キロワット時の消費電力、年間250万トンの二酸化炭素の削減にも成功している。

 具体的には仮想化技術を使い、3900台ものサーバをメインフレーム「System z」30台に統合したほか、使用しているアプリケーションの数を1万5000から4700に減らした。社内改革を実施した1997年には世界に128人いたCIO(最高情報責任者)も、今は1人になっている。経営のガバナンス(統制)が効くように、さまざまな社内環境の統合化・標準化を進めた。「エネルギーをどうコントロールするかは、情報産業にとって大事なトピックだ」と岩野氏は話す。

 岩野氏は「ヒトやモノ、カネ、ソフトウェア、センサーなど、あらゆる情報が協調した森羅万象のネットワークが作られるようになった。そのデータをリアルタイムに捕捉し、社会やビジネスの目的に沿って秩序を与え、生態系を作ることが求められている」と強調する。これはSmarter Planetが描く「未来の地球のあるべき姿」にほかならないといえるだろう。

image 6月16日に広島国際会議場で開かれた「IBM環境シンポジウム2009」の様子

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ