日本と日本人は「GM化」しつつあったのでは?オルタナティブ・ブロガーの視点

同じ釜の飯を食うことを忘れた日本企業、そしてガラパゴス化が進む「ニッポン丸」は、グローバル化が進む世界で生き残れるのか。オルタナティブ・ブロガーの森島秀明氏が、海外進出に失敗しかけた日本企業を例にとって解説します。

» 2010年11月12日 11時48分 公開
[森島秀明,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「こんなところにも、グローバリゼーション2.0」からの転載です。エントリーはこちら。)

 今週は「APECだ、TPPだ」ということで、ニュースなどでも経営のグローバル化に関する特集が増えている。11月9日は、「NHKニュース 『日本企業の人材流動化(現地人の登用)』」、「TV東京 『ガイアの夜明け――中国進出工場でのスト回避』」と、立て続けに2時間見た。その感想が表題である。


 『中国進出工場でのスト回避』では、問題を生じている企業の工場における

  • 現地労働者用の食事がまずい一方、日本人幹部は別室で旨いものを食べている
  • 日本人管理職は、労働者に話しかけない
  • 日本人だけで重要な会議を行い、労働者は蚊帳の外

などの問題点が指摘されていた。これを見て、General Motors(GM)が撤退した工場跡にTOYOTAがGMとの合弁企業『NUMMI』を設立して成功した物語を思い出した。

 ビジネススクールのリーダーシップ系の授業で教科書によく出る日本式管理の良いところ=TOYOTAの現場主義の象徴として、工場長などの幹部が現場の労働者と同じ食堂で「同じ釜の飯を食う」ことによるTeamSpiritが挙げられる。

 ところがアジアの進出先で一部の日本企業は鉄則を忘れ、かつての米国企業と同じ過ちを犯していることが往々にしてあるということなのだろう。

 そう、この問題を抱えた中国進出企業は『GM化』していたのである。

 今までは先進国市場での現地生産という『上目使いの海外進出』だったが、低賃金を求めたアジア進出では、「日本人のものづくりは優れている」という意識が、いつの間にかわれわれ日本人に『驕りの意識』を持たせていたのではないか? と感じた次第である。まるで、GMが「われわれは世界一の自動車メーカー」というプライドが捨てられなかったのと同じように……。

 この特集は、社長や工場長が改心して、リーダー級の中国人労働者から意見を吸い上げる会議を行ったり労働者と同じ食堂で食事することとなり、食事のメニューが改善され、労働者のムードが一変するというHappyEndになっていた。最後まで意識を変えなかったGMとの違い=日本人の柔軟性に、救われた気持ちになった。


 『日本企業の人材流動化(現地人の登用)』は、『GM化』から立ち直る話として見ることができるだろう。

 ただし、その結果「幹部の椅子」を巡る競争が激しくなり、日本企業の中でも、日本人だという事実は優位性でも何でもなくなるということを忘れてはならない。ここを忘れてしまうと、『NUMMIの成功から何も学べずに滅んでしまったGM』と同じように、頭では現地人登用の重要性を理解していても、「俺たちは本社社員だから」とタカをくくって何も行動を変えなかったGMの社員と同じような羽目になってしまうのである。

 「TOYOTAに学べ」という号令の下、GM本社のお偉いさんや若手幹部がNUMMIへ工場視察する。しかし本社に帰れば、「あれはよその出来事」として忘れてしまう。毎年新たな管理職が同じように見学者としてやってくる。でも、何も変わらない……。まるで、政権交代があっても政治家が何も変えられないように。


 ところで本家のGMは、いったん債務整理された後、早くも再上場されようとしている

 労働者への年金負担を切り離しさえすればキャッシュフローは回っているという判断で、どこかのファンドが支援するような話も出ているようだ。これもまるで、高齢化で年金負担を抱えた「ニッポン丸」に酷似しているように思われる。

 そもそもGMが凋落した原因の1つは、世界の自動車需要が小型化・低燃費化に向かうトレンドの下、ガソリン大量消費・SUVというある種の『ガラパゴス市場』に固執し続けたことにあるだろう。これも、国内・先進国市場だけしか見ていない日本企業との類似性を想起させられる。

 年金債務=高齢者を切り捨て若者だけの国や企業にしたら、『ニッポン丸』を誰か助けてくれるだろうか。

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