地方/海外の優秀な学生を発掘せよ サイバーエージェント“ピグで会社説明会なう”

サイバーエージェントが人材獲得に向けて新たな取り組みを打ち出した。仮想空間「アメーバピグ」を活用した企業説明会を開催、1000人以上の応募が殺到した。

» 2010年12月07日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 急激な円高、株価の低迷、消費不振による内需の落ち込み――。日本経済を取り巻く状況は依然として厳しい。この影響は就職市場にも暗い影を落としている。文部科学省と厚生労働省が11月16日に発表した大学生の就職内定率は、10月1日現在で57.6%と、「就職氷河期」といわれた2003年の60.2%を大きく下回る結果となった。

 そうした中で何とか企業から内定を得ようと、十数社、あるいは数十社に応募する学生も珍しくない。しかし、会社説明会や採用面接などが行われるのは、多くの企業が集まる東京や大阪といった大都市が中心になるため、地方に住む学生は会場に行くだけで多額の交通費や宿泊費を負担しなければならない。

 就職情報サービスを提供するソフトバンク・ヒューマンキャピタルの調査によると、地方の学生が就職活動にかけた費用は平均12万2000円で、交通費や宿泊費などを削るためにインターネットカフェに泊まった経験のある学生は11.8%に上った。仕事に就き、収入を得るための就職活動なのに、そのためにアルバイトをしたり、親から経済的な援助を受けたりという学生が多いのが実情である。

地方や海外の学生にも参加機会を

 就職活動に対するこうした学生の負担を少しでも軽減するとともに、企業にとってもより効果的な採用を行うべく、このたびサイバーエージェントが実施に踏み切ったのがインターネットによる企業説明会だ。

 具体的には、同社が運営する仮想空間サービス「アメーバピグ」の中で、動画配信やユーザー同士のコミュニケーションが可能なエリア「ピグドーム」に企業説明会の会場を設置。そこで企業説明動画や社員インタビュー映像を配信するほか、学生と社員の交流タイムも用意する。

 参加対象となるのは2012年入社を希望する新卒学生で、企業説明会(現実世界での説明会も含む)に関しては、参加の可否が実際の選考に影響することはないという。

 仮想空間による就職活動といえば、数年前に日本でも話題になったバーチャル世界「セカンドライフ」が思い出す読者も多いだろう。当時、ミクシィやNTT東日本などがセカンドライフを利用して学生向けに企業説明会を開催した。このたびのサイバーエージェントによる仮想空間を使った説明会の狙い、特徴はどこにあるのか。

 アメーバピグを活用した企業説明会という今回の企画は、人事部門と広報部門の共同による発案だという。人事部の狙いとしては、地方や海外に在住する学生にもより多く説明会に参加してもらうとともに、優秀な学生の獲得機会を広げることにある。一方、広報部の視点では、さまざまな学生に同社の経営方針や事業内容などを知ってもらい、サイバーエージェントのサービスや企業そのものに興味を抱いてもらうきっかけになることを目的としている。

 説明会の詳細内容については後述するが、同社の期待通り、初回の説明会に参加した学生のうち約4割が地方/海外在住で、例えば沖縄や台湾、カナダなどからの参加者を目にすることができた。昨今、同社は米サンフランシスコにスマートフォンアプリの開発拠点を設置したり、中国やベトナムなどのネットベンチャー企業に投資したりするなど、海外展開に積極的な姿勢を見せており、こうした取り組みも海外の学生の関心を集め、参加者の数字を押し上げた1つの要因かもしれない。

アメーバピグでの新卒向け会社説明会(12月2日開催)の舞台裏。サイバーエージェントの社員十数名が会議室に集まり、自身のピグを動かして学生とリアルタイムに対話したりした アメーバピグでの新卒向け会社説明会(12月2日開催)の舞台裏。サイバーエージェントの社員十数名が会議室に集まり、自身のピグを動かして学生とリアルタイムに対話したりした

藤田社長もピグで登場

 12月2日夜に開催された第1回の説明会には、同社の採用ホームページ経由で1000人を超える応募があり、学生たちはピグ(自分の分身となるアバター)を使って参加し、“リアルな”企業説明会ではなかなか体験することのできない熱気に包まれた。

 司会進行を務める人事担当者のピグが説明会スタートの挨拶をした後、まずは藤田晋社長によるサイバーエージェントの企業説明映像が流れると、早くも学生のピグたちから「こんばんは!」や「社長!」といった歓声が上がる。10分程度の映像が終わると、今度は複数社員のインタビュー動画が流れ、職種ごとの簡単な説明がなされた。

藤田晋社長のピグの登場に学生たちは大興奮最後は社員と学生の挨拶大合唱で幕を閉じた 藤田晋社長のピグの登場に学生たちは大興奮(左)。最後は社員と学生の挨拶大合唱で幕を閉じた(右)

 続いて、藤田社長のピグが説明会のステージに登場すると、会場のボルテージは最高潮に。冒頭では大騒ぎしていた学生たちだったが、ひとたび藤田社長が口を開くと、仮想空間とはいえ、社長本人を目の前にして学生たちの間に緊張感が流れたのか、話を真剣に聞き入って会場全体が無言になる場面も見られた。

 最後は、5人の社員代表がステージに上がり、それぞれの今の業務について説明した後、質疑応答が行われた。学生からは「就職する上で大切なことは何ですか」「なぜサイバーエージェントを選んだのですか」「求める人材像を教えてください」など多数の質問が飛び交った。

 社員代表として参加した山崎ひとみ氏(アメーバ事業部 スマートフォンDiv プロデューサー)は、「通常の会社説明会だと企業と学生の間に距離があり、堅い雰囲気になりがちだが、お互いにピグだと親近感が沸き、ささいなことでも気軽にコミュニケーションを取ることができる」と話した。卜部宏樹氏(サイバーエージェントグループのアプリボット 取締役)は「学生からはほとんど質問が出ないと思っていたので、学生の反応の良さにびっくりした」と驚きを隠せなかった。

 今後に向けた改善点として、二宮功太氏(インターネット広告事業本部 ソーシャルメディアマーケティング事業部 エグゼクティブ コミュニケーションプランナー)は「学生と社員が直接対話する時間がもっとあれば、学生はさらに企業や仕事について理解できるようになるのでは」と語った。

 今回の初開催を終え、同社ではさっそく第2回目のオンライン企業説明会を実施する予定だ。また、藤田社長が動画共有サービス「Ustream」を活用した中途採用説明会の検討をTwitter上で表明していることからも、同社の採用活動における新たな取り組みが広がっているのをうかがい知ることができよう。

藤田社長がTwitterで「ピグで会社説明会なう」。中途採用に関するつぶやきも 藤田社長がTwitterで「ピグで会社説明会なう」。中途採用に関するつぶやきも

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