東日本大震災の発生直後に通常業務の遂行が難しくなった企業が少なくない。エンタープライズコンテンツ管理製品を手掛けるオープンテキストは、自社製品を利用して業務への影響を最小限にとどめたという。
3月11日に発生した東日本大震災によって、翌日から多くの企業が社員の安全を確保するために自宅待機を指示するなどの対応に追われた。在宅勤務などオフィス以外でも仕事ができる環境を平時から整備していた企業とそうではない企業との間で、事業継続性に対する取り組みの差も浮き彫りになった。
非常時における事業継続性をいかに確保すべきか――エンタープライズコンテンツ管理(ECM)製品を手掛けるオープンテキストに、今回の震災における同社での対応を聞いた。
ECM製品は、組織の情報共有基盤として企業で広く導入されるようになって久しい。基本的には組織内に散在する情報を集約して活用するためのものだが、オープンテキスト 技術本部ディレクターの市野郷学氏は、こうした特徴が非常時における事業継続性の確保や災害復旧にも役立つことが明らかになったと話す。
同社では、以前から自社のECMシステムと業務システムと連携させて情報を共有する仕組みを運用しており、ドキュメントの電子化やアクセス権限に応じて社員が必要な機能や情報をオフィスの外からでも利用できる環境を整備していた。
東日本大震災の発生を受け、翌日からは余震による危険を考慮して、ほぼ全ての社員を対象に1週間におよぶ自宅待機の措置を取った。この間は多くの社員が在宅勤務をすることになったが、PCやスマートフォン、iPadで自宅から社内のシステムにアクセスできたため、平時と遜色のない業務レベルを維持できたという。
「例えば、サポート担当者は製品に関する問い合わせを受けても、社内のECMシステムにアクセスして必要な情報を取り寄せ、すぐに返答ができた。急な場合は、自宅で必要な情報をまとめてから顧客先に直接出向くといった対応も取れた」(市野郷氏)
ベンダーの立場から自社製品を日常的に活用することは当然の取り組みにも映る。だが今回のような事態に実際に直面して、平時の仕組みが十分に機能しなかったというベンダーもあったようだ。市野郷氏は、この点で平時とは異なる対応を必要とするようなことはなかったと話す。
災害対応や事業継続の点でECMをどのように活用できるのか――市野郷氏はポータル化とパーソナライズ化がポイントだと指摘する。ECMを組織内のさまざまな情報を集約する場とするだけでなく、集めた情報を個々の社員が必要とする形で提供できるようにすることが大切だ。
「役割に応じた情報の利用ルールやワークフローの仕組みを用意しておけば、社員は自分がすべき仕事を把握してすぐに取り掛かれる」(市野郷氏)
また同社は、ECM製品でソーシャルサービスと連携する機能も提供しており、2010年に韓国・釜山で開かれた20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)で参加国が情報発信する基盤に採用された。今回の震災では情報共有の仕組みとしてソーシャルサービスが多方面で活用され、ECMとの連携でも顧客やパートナー企業など外部の関係者に自社の情報を発信したり、情報を集約したりといった活用が期待される。
セキュリティやコンプライアンスの観点から情報の利用について厳しいルールやポリシーを適用している企業が少なくないが、非常時にこれらが情報を活用する上での障壁になるシーンがあり、一時的にルールやポリシーを変更して対応したところがある。
今後は、非常時であっても通常の情報管理体制を維持しながら情報を広く活用できる仕組みを整備することが、災害対応や事業継続の点で重要になりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.