ハードウェア事業に向けたオラクルの思惑Weekly Memo

日本オラクルが先週、システム事業に関する戦略説明会を行った。旧サンとの統合から1年が経過した中で、あらためてオラクルのハードウェア事業への思惑を探ってみた。

» 2011年07月25日 08時00分 公開
[松岡功ITmedia]

エンジニアードシステムを事業拡大の主軸に

 「オラクルが今、最も注力しているのは、サーバ、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアを最適な形で組み合わせたエンジニアードシステム。これによって、マルチベンダー形式で個々を組み合わせたシステムより、劇的なパフォーマンス向上を図ることができる」

 米Oracleでシステムズ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるジョン・ファウラー氏は7月22日、日本オラクルが開いたシステム事業に関する戦略説明会でこう語った。

 会見に臨む米Oracleシステムズ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのジョン・ファウラー氏 会見に臨む米Oracleシステムズ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのジョン・ファウラー氏

 続けて同氏は、「もちろん、サーバやストレージなどハードウェアの個別製品も引き続き強化し、ユーザーが最適なシステムを構築できるように選択肢を提供していく」とも述べた。

 オラクルが言うエンジニアードシステムとは、ハードウェアの技術を生かしてミドルウェアの性能を高めた統合製品のことだ。すでに同社では、データベース専用機「Oracle Exadata Database Machine」やJava専用機「Oracle Exalogic Elastic Cloud」を市場投入している。

 とりわけ、Exdataの納入実績は全世界で1000台以上を数え、2012年度(2011年6月〜2012年5月)にはこれを一気に3倍に伸ばそうという意気込みだ。そのため、さらなる大容量データの分析処理に適した製品などを新たにラインアップしていく構えだ。

 一方、個別製品の強化策としてファウラー氏が挙げたのは、SPARCプロセッサやSolaris OSの性能向上である。これらについてはすでにロードマップを公表しており、とりわけSPARCについては、今後5年間で性能を40倍に引き上げるという果敢な計画を打ち立てている。

 つまり、オラクルのシステム事業戦略としては、エンジニアードシステムを今後の事業拡大の主軸に据えながら、個別製品についても引き続き強化してユーザーに選択肢を提供していく、といったところか。

 だが、Oracleの2011年度第4四半期(2011年3月〜5月)の業績をみると、ハードウェア事業は前年同期から横ばい。内訳では、システムサポートが同12%の増収だったものの、システム製品は同6%の減収となった。これにはエンジニアードシステムも含まれていることから、要は個別製品の売れ行きが厳しい状況にあることがうかがえる。

ハードウェアの個別製品にみた旧サンの面影

 こうした業績状況の見方に対して、ファウラー氏はこう答えた。

 「ハードウェア事業は、売上高としてはこの1年、前年から横ばいで推移したが、利益率はサン・マイクロシステムズ時代よりも劇的に増えている。その最大の理由は、この1年でマージンやコストの構造に抜本的なテコ入れを図ってきたからだ。例えば、2011年度第4四半期ではマージン率が22%アップしている。その意味では、2011年度は2012年度以降の成長に向けた準備の年で、利益体質の強化を図るのが最大の眼目だったが、その方向で1年を終えることができた」

 つまり、オラクルにとって2011年度のハードウェア事業の業績推移は、思惑通りだったということか。

 確かに2012年度以降の成長に向けては、エンジニアードシステムが一層貢献してくるだろう。さらに2011年末には、ミドルウェアを含まない汎用サーバシステムとして、ストレージやネットワーク機能も統合した「SPARC Supercluster」と呼ぶ新製品も市場投入する予定だという。

 ただ、説明会ではファウラー氏に対し、記者から異口同音の質問が重ねて飛んだ。それは「オラクルは本当に、今後もサーバやストレージなどハードウェアの個別製品を強化し続けるのか」、もっと言えば「そうした個別製品でもヒューレット・パッカード(HP)やデルなどの競合と、今後も真っ向から戦っていくのか」といった疑問だ。

 こうした質問に対し、ファウラー氏は先にも述べたように「個別製品も引き続き強化し、ユーザーが最適なシステムを構築できるように選択肢を提供していく」と重ねて答えた。そして、今後大きく伸ばすのは、個別製品を生かしたエンジニアードシステムが主軸になることも重ねて強調した。

 これで、質疑応答としては成立している。だが、異口同音の質問が重ねて飛んだのは、個別製品に旧サンの面影を投影している記者が少なくなかったからだろう。筆者もそんな想いで質問した一人だったが。

 とはいえ、ビジネスはそんな思いだけでうまく行くほど甘くはない。その意味では、今オラクルが進めているシステム事業戦略は、同社ならではの攻勢のスタイルだろう。

 余談だが、今回の説明会では、話の中身とは別に旧サンの面影を感じた部分があった。

 それは、ファウラー氏が旧サン出身だからだ。同氏はサンに14年以上在籍し、この間、エグゼクティブ・バイスプレジデントとしてソフトウェア事業の最高技術責任者(CTO)やシステム事業の責任者を務めてきた。

 実は2004年初旬、当時ソフトウェア事業のCTOだったファウラー氏が来日した際に、単独インタビューをしたことがある。的確な受け答えもさることながら、最も印象に残っているのは、当時サンが開発中だった3次元デスクトップ環境のデモを、同氏が嬉々として操作しながら説明してくれたことだ。

 およそ7年半の時が過ぎ、Oracleのシステム事業責任者として会見に臨んだファウラー氏には、どんな質問にも巧みに答える柔軟さが増したように感じた。時のなせる業でもあろう。もう少し時を経て機会があれば、歴史に刻まれたオラクルとサンの統合をめぐる検証を、ぜひ同氏に聞いてみたい。

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