デザイナーと技術者を競争力の源泉に ジークス田中克己の「ニッポンのIT企業」

約60人の会社で技術者が40人、デザイナーが20人。なぜジークスはこのような開発体制を築いているのだろうか。

» 2012年09月20日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 Webアプリケーション開発などを手掛けるジークスは、新しい技術を積極的に取り入れている。渡辺浩代表取締役社長は「技術者のモチベーションを高めて、技術力で勝負する」と狙いを明かす。そのために売り上げの5%強を投資に振り向けて、技術力の向上と自社商品の開発を進める。受託開発市場の中で生き残る有力な策になる。

デザイナー約20人を配置する理由

 1994年に設立したジークスは社員約60人の中小IT企業だが、技術者約40人、デザイナー約20人という布陣をしく。「請負をベースにするが、他社と異なるのはオープン系でクリエーティブ性を取り入れていること」(渡辺社長)。分かり易く言えば、オープンソースソフトウェア(OSS)などの新しい技術を使って、企画からUI(ユーザーインタフェース)設計、開発、運用まで一貫して請け負うこと。「UI設計はひらめき、つまり右脳で考えるデザイナーが担当し、技術者がそれをオープンなテクノロジーを使って実現する」(渡辺社長)。技術者とデザイナーを組み合わせた開発体制にした理由だ。

 ジークスはその開発体制を推進するため、売上高(6億〜7億円)の5%から10%を開発投資にあてている。新しい技術もどんどん使う。最近では、HTML5を使ったアプリケーション開発や、新しい開発環境の整備に取り組んでいる。技術者がオープン系、商用系の開発環境のメリット、デメリットを理解して使うことで、効果の高いシステムを作り上げられるからだろう。技術者のモチベーションを上げるためでもある。

 実働部隊を5グループに分けているジークスは、グループごとに分かれて、1〜2週間に1回の頻度で勉強会を開いている。その中で、議題に上がった新しい技術について検討を重ねる。ある技術者が注目した技術があれば、勉強会の前に社内メールで意見を交わすこともある。渡辺社長がそうした情報交換を随時チェックし、発言者らの意見を聞きながら、どの新技術を取り入れるのか決定する。「私が知らない間に、グループ長が勝手に採用し、開発ツールとして使っていることもある。逆に、私が見つけてきたものを、特定のメンバーに調査、議論させて採用決定することもある」(渡辺社長)。

自社商品を売り上げの2割に

 新しい技術を使うことによる問題もある。一つは、新しいことばかりにチャレンジするあまり、活用ノウハウの蓄積が難しくなり、それをベースにしたソリューション商品が作りづらくなること。そんな受託開発会社を外から見たら、何を売りにしているか分からないということにもなる。半面、同じ開発ツールを使え続ければ、その効果的な活用ノウハウが貯まる。だが、同じ事の繰り返しになると、技術者のモチベーションが下がる可能性がある。

 そこで、いくつかの開発経験を自社商品の開発に生かすことにした。ゲームソフト配信システムやECサイトの構築を請け負った経験から、ゲームソフト配信の専用プラットフォームやEC専用プラットフォームを商品化する計画だ。渡辺社長は近い将来、こうした自社商品を売り上げ構成比で2割程度にすることを考えている。

 自社商品の第一弾は、約1年前に発売した企業内iPadドキュメント配信サービスである。PDF化したさまざまな形態のデータをクラウド上で管理して、iPadに配信するもの。2012年8月には、スマートフォン向け開発フレームワーク「ダイナミックアプリ」の販売も開始した。スマートフォン向けアプリケーション開発の経験から生まれたダイナミックアプリは、HTML5とネイティブアプリを融合することで、iPhoneやAndroidなどマルチデバイスに対応するアプリケーションを作れる開発フレームワークである。

 例えば、あるユーザーからiPhone向けアプリケーション開発を500万円で請け負う。その後、Android向けを受託し、再び500万円を要求したら、ユーザーはおそらく納得しないだろう。「そんなことを言ったら、激怒するかもしれない」(渡辺社長)。この問題を解決するために、開発フレームワークを商品化したわけだ。

 ジークスは、ダイナミックアプリを1ライセンスあたり27万円で提供するとともに、フリーソフトライセンスのGPLによる無償提供もする。「ダイナミックアプリだけで、大きな収益を稼げるものではない。当社の技術力を評価してもらうことで、受託開発案件がとれるようにする」(渡辺社長)。自社商品は、ジークスの知名度を上げるという狙いもある。


一期一会

 「当社は昔からデザイナーを採用してきた。そのことが、今日まで生き残れた理由になっている」。渡辺社長はそう確信する。加えて、高い技術力である。それが受託開発市場の中で勝ち抜ける条件になる。だからこそ、ジークスは新技術に果敢に挑戦するための投資を継続している。デザイナーの力を生かしたり、開発技術者のモチベーションを向上させたりすることにも取り組んできた。

 「事実上、研究開発費ゼロ」という受託開発会社が多い中で、ジークスは異なる路線を走ってきた。例えば、今、力を入れているスマートフォン向けアプリケーションのデザイン力を、企業向けアプリケーションにも生かそうとしている。デザイナーが管理画面をより見やすくすることを考え、技術者が新技術を駆使して実現する。そんな領域が広がっていくことを期待している。

 ジークスは現在、ソフト開発の北洋情報システムの子会社である。独立系として事業をスタートしたが、上場に向けて、ある上場会社の傘下に入ったが、その会社が倒産してしまった。そんな中で、北洋情報が2008年にジークスの全株式を取得した。その後、社長に就いた渡辺氏は先行投資を確保し、技術者に新しいことに挑戦できる環境を整えてきた。生き残り、成長を遂げるためである。

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