NRIの新データセンターが始動 独自の「ダブルデッキシステム」の全貌とは

野村総研が東京都多摩地区に開設した「東京第一データセンター」が稼働を開始。独自の「ダブルデッキシステム」の採用で、高い空調効率や耐震性を目指した施設となっている。

» 2012年11月22日 08時00分 公開
[本宮学,ITmedia]

 野村総合研究所(NRI)は11月21日、東京都多摩地区で建設を進めてきた「東京第一データセンター」の運用を開始した。これに先立ち、独自の建築方式を採用したデータセンター内部を報道向けに公開した。

photo 東京第一データセンター

 東京第一データセンターは、同社としては国内5カ所目となるデータセンター。東京都多摩地区に位置し、都心から電車で40分ほどの場所にある。延べ床面積は3万8829平方メートルと、同社の「横浜第一データセンター」(約2万平方メートル)と「横浜第二データセンター」(約1万5000平方メートル)を足して余りある規模だ。

photo NRIの中村卓司 執行役員システムマネジメント事業本部長

 同社がデータセンターを開業するのは、2007年に建設した横浜第二データセンター以来4年ぶりとなる。中村卓司 執行役員システムマネジメント事業本部長によると、同社では売上高の約90%をITサービスが占めており「既存のデータセンターでは足りないと判断し、4年越しの計画で(新データセンターを)オープンした」という。

 建設地として多摩地区を選んだ最大の理由は「災害対策」だ。首都直下地震が発生した場合、大きな揺れに加え、東京湾付近など地域によっては大規模な浸水や液状化も懸念される。こうした中、都心から約30キロ離れた多摩地区なら都心部と同時に被災する可能性が薄いと判断したという。

 「都心の機能をいかにバックアップするかという点で、立地選定は重要だった」と同社の浅野憲周 コンサルティング事業本部社会システムコンサルティング部上級コンサルタントは話す。地盤の安定性に加え、都心から複数の鉄道路線が乗り入れる交通の便も、多摩地域を建設地として選んだ要因になったという。

「ダブルデッキシステム」で空調効率と耐震性を両立

 こうして建設された新データセンターは、緑の木々に囲まれて広々とした外観を持つ。内部はサーバ約2500ラックを収容できる広さもさることながら、最大の特徴は同社が特許出願中という独自の建築方式「ダブルデッキシステム」の採用だ。

 この方式では、高さ8メートルの1フロアを上下に分割して2層化し、上層はサーバのみを設置する「コンピュータエリア」、下層は空調機などの設備機器のみを設置する「メンテナンスエリア」として区分。下層の空調機の配置を工夫することで、ラック当たりの冷却効率を高めているという。

photo ダブルデッキシステムの概要図

 空調システムの仕組みはこうだ。コンピュータエリア内の空間をサーバラックのある「タスク域」とその周辺の「アンビエント域」に分割し、タスク域のみを集中冷却する「タスク&アンビエント空調方式」を採用。冷却が必要な箇所のみを下層から集中的に冷やすことで、平均7.5キロワット、最大30キロワット級の高密度ラックでも問題なく運用できるという。

photophoto ダブルデッキ上層(写真=左)、下層(写真=右)
photo 国内最大級という5000KVAの自家発電装置を10基備える

 電力供給面では、東京電力から2万KVAの電力を2系統で受電している。さらに非常用電源設備として「国内最大級」(NRIの藤井裕久システムマネジメント事業本部DCマネジメント部グループマネジャー)という5000KVAの自家発電機を10基設置。常に60万リットルの石油系燃料を確保し、停電発生時もUPS(無停電電源装置)が稼働している間に約40秒で電源供給を再開できるようにしているという。

 上下2層構造を生かして耐震性も高めている。上層と下層の間に「縦揺れ制振ダンパー」を設置し、上層のコンピュータエリアにおける地震時の垂直方向の揺れを20〜40%低減。さらに建物全体を免震構造とすることで、水平方向の揺れも3分の1程度に抑えるとしている。

 この2層構造はセキュリティ対策の強化にもつながっているという。コンピュータエリアで作業するサーバ管理者と、メンテナンスエリアで作業する設備管理者の持ち場が完全に分かれているため、人的要因による情報漏えいなどのリスクを低減できるとしている。

photo 3Dホログラフィックボディースキャナー

 セキュリティ対策ではこのほか、建物内の各所で共連れ入室を防ぐサークルゲートや指静脈認証などを用意。特にデータセンター内に入るための最初のゲートには、「国内のデータセンターとしては初採用」(藤井マネジャー)というセキュリティ装置「3Dホログラフィックボディースキャナー」を設置。ゲートをくぐる際に微弱な電波を人体に当てることで、24時間体制での持ち物チェックを行っている。

金融業界向けクラウドの一大拠点に

 同社は新データセンターを、まずは同社が多くの既存顧客を抱える金融業界向けアウトソーシングサービスやクラウドサービスの拠点として運用していく考えだ。今後は他社のパブリッククラウドとの連携サービスなども提供し、「金融向けクラウドの一大拠点にしていく」と中村本部長は意気込む。

 また、新データセンターでは顧客企業が所有するラックの受け入れも実施するという。これはあくまでハウジングやコロケーション自体をビジネスの目的とするのではなく、「まずは顧客の2キロワット級のサーバをセンター内に設置してもらい、そこから一層高密度のサーバを使った当社のクラウドサービスに移行してもらいたい」(中村本部長)という狙いだ。

 中村本部長によると、東京第一データセンターは既に「多くの顧客から問い合わせをいただいており、見学対応に追われている」状況という。既設の横浜第一・第二データセンターからの移行を希望するユーザーも増えているほか、東日本大震災以降に災害対策のニーズが強まっているとして「8〜10年で満床になるのでは」と中村本部長は見込む。

 さらに、2015年には関西地区に新たなデータセンターを建設、稼働させる計画もあるという。新センターでは今回のダブルデッキシステムそのものを採用する予定はないものの、簡易版として導入していく可能性はあるという。

photophoto 東京第一データセンター内の設備の稼働状況をチェックする中央監視室(写真=左)、大阪や横浜などの他拠点とビデオ会議などでやり取りするための統合管制室(写真=右)

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