タレントマネジメントとSNSが起こす“化学反応”Weekly Memo

日本オラクルが先週発表したタレントマネジメントの新製品は、SNSとの連携を図ることができる。これが発展すれば、企業にとって新たな“化学反応”が起こるかもしれない。

» 2013年02月04日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

SNS連携が可能なタレントマネジメント製品が登場

 日本オラクルが1月31日、タレントマネジメント分野で新たなクラウドサービスを提供開始すると発表した。米Oracleが昨年2月に買収を発表した米Taleoのサービスを国内向けに展開する。

 新サービス「Oracle Taleo Cloud Service」は、人材の採用・育成・業績評価・キャリア開発・後任計画・最適配置などのタレントマネジメントに関わる業務を包括的に支援するSaaS型サービスである。

会見に臨む日本オラクルの遠藤隆雄社長 会見に臨む日本オラクルの遠藤隆雄社長

 同社の遠藤隆雄社長は発表会見で、「これまでの人事管理システムは従業員の業績管理を行うためのものだったが、これからは人材を強化して組織を活性化し、現場から変革が起こるような仕組みづくりが必要だ。その変革を自ら起こせるタレントがいるかどうかで、企業の今後の成長が決まるといっても過言ではない」とタレントマネジメントの意義を語り、同社としても重点事業の1つに据えていくとした。

 この分野については筆者も昨年来注目し、2012年8月30日掲載の『動き出したタレントマネジメント市場』や、今回の新サービスをはじめとした日本オラクルの戦略についても10月1日掲載の『オラクルが語るタレントマネジメント』と題したコラム記事でいち早く紹介してきた。

 その過程でさまざまな取材を行ってきたが、今回の新サービスの特徴に、この分野の今後に対する興味深い方向性を感じたので、改めて取り上げておきたい。新サービスの概要については、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは最大の特徴に焦点を絞って話を進めたい。

 その最大の特徴とは、優秀な人材を効率良く採用するための仕組みにある。具体的には、人材開発会社のサービスやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)と連携したり、ダイレクトリクルーティングを支援する機能を備えていることだ。

 ここで特に注目したいのは、SNSとの連携である。新サービスでは、とりわけ採用におけるプロセスで有効活用を図ることができるとしているが、タレントマネジメントとSNSを本格的に連携させれば、企業にとってさらに画期的な“化学反応”を起こせるのではないだろうか。

 先ほど、従来の人事管理システムとタレントマネジメントの違いを語った遠藤氏のコメントを紹介したが、同じ切り口で筆者がこれまで取材で得た解釈を基に、その“化学反応”について紐解いてみたい。

管理職や人事担当者だけでなく従業員全員が利用者に

 改めて、タレントマネジメントは従来の人事管理システムとどこが違うのか。従業員にかかわる情報を扱うという面では、いずれも共通の人材データベースを基盤とする形になるが、その目的において、従来の人事管理システムの多くは、一連の人事業務を効率的にこなすことに主眼が置かれている。

 また、人材の流動性が高い米国などでは、従業員を「ヒューマンキャピタル」、すなわち「人財」と位置付けて、個人の能力や評価をより重視して管理する製品が広く利用されているが、その多くは管理者の視点で設計されたものといえる。

 これに対してタレントマネジメントは、従業員のやりがいや自己啓発などに力点を置き、持てる力を存分に発揮してもらおうとの意図が込められている。そこには、モチベーションの維持を図るとともに、公平な評価を見える化し、活躍に見合う処遇で応えようという考え方がある。それらの結果として人材の定着・強化につなげようというわけだ。

 さらにもう1つ、大きな違いといえるのは、タレントマネジメントの利用者は従業員全員が対象になり得ることだ。例えば、管理職や人事担当者は、可視化された人材データを活用して組織計画を立案したり、部下を評価したりする。

 一方、個々の従業員はグループウェアのように自己評価や実績などを日々入力するほか、SNSを活用してコミュニケーションを図る、といったイメージだ。その意味ではグループウェアとの連携も有効だが、それを含めてタレントマネジメントとSNSを連携させれば、管理職や人事担当者だけでなく、従業員全員にとって有効な仕組みを構築できるのではないか。筆者はここに画期的な“化学反応”の可能性を感じる。

 SNSとの連携機能を備えたタレントマネジメント製品によって、個々の従業員の社内における人間関係(ソーシャルグラフ)を可視化することができるので、例えば最適な人材をそろえてプロジェクトをすぐに立ち上げたい、といったときに一段と有効だ。なぜならば、本人の適性をより的確にとらえるうえで、多角的な情報を集められるからである。

 そうしたタレントマネジメント製品を指向する代表格といえるのが、今回日本オラクルが発表したOracle Taleo Cloud Serviceである。ただ、こうした製品戦略は、Oracleと同様に有力なタレントマネジメント製品ベンダーを買収したSAPやIBMも本腰を入れてくるとみられ、今年は一気にこの分野が激戦区になる可能性もある。あるいはこの“化学反応”を目指してダイナミックなアライアンスが生まれるかもしれない。

 改めて、企業がタレントマネジメントによって目指すのは、これまで以上に「ヒト」を有効活用することである。「ヒト」は「モノ」「カネ」と同じく経営資源の1つだが、IT活用の観点からみれば、「モノ」「カネ」と比べてかなり遅れている印象がある。

 したがって、経営の全体最適を目指すためには、「ヒト」の有効活用を図る手立てを講じる必要がある。タレントマネジメントはその絶好の手立てとなり得るだろう。さらにSNSと深く連携させれば、社内外に大きく広がるような新しい活用法を見出せるような気がしてならない。知恵の出しどころではなかろうか。

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