ワークスタイル変革と生産性向上への取り組みで実感した工夫と課題次世代オフィスの進化論(3/3 ページ)

» 2013年04月30日 08時00分 公開
[会田雄一(クオリカ),ITmedia]
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クオリカの新オフィス(Thin Office)の評価

 新本社に移転して1年が経った今年1月、社員にアンケート調査を行った。移転前と比較し、仕事の生産性が上ったか、仕事のスピードが速くなったか、社員個人として主観的にどのように評価しているかを聞いた。

 アンケートの回答結果は、グラフ1グラフ2の通りである。職種、役職、年齢などさまざま属性の社員が回答しているが、いずれの質問にも回答者の約60%が「改善している」と回答している。「変化が無い」と回答した社員は約30%で、「悪化した」と回答した社員はわずかであった。

 社員が具体的に高く評価している点は、(1)「自宅や出先で仕事ができる」「直行直帰が容易」といった社外からの接続にかかわるもの、(2)「打合せしたい時にいつでも打合せができる」「他拠点や社外の人とすぐにWeb会議ができる」「スマートフォンでカレンダーが見られるので手帳がいらない」といったコラボレーションにかかわるもの、(3)「24インチディスプレイは大画面でとても仕事がしやすい」「PCを持ち歩く必要がないのでとても楽」といったVDI端末にかかわるもの――などであり、ほぼ狙い通りの効果が実現できたと考えている。

 想定外の成果もある。ペーパーレスを推進できたことだ。今、会議のほとんどはペーパーレスになっている。「会議室やコラボレーションエリアに大画面のVDI端末が設置されているので紙を使わなくても会議ができる」や「会議の資料と出席者数を確認し、事前に用意しなければならなかったが、その必要が無くなってとても嬉しい」という声が多数あった。さらに、「座席のVDI端末でA3でも実物大でプリントイメージが確認できるので、確認のためのプリントが無くなった」という声も多い。

 誰も紙を使いたくて使っているわけではない。プリントも面倒で無駄なことだと分かっている。紙が無くても仕事ができるオフィス環境があれば紙は使わないということだ。実際、クオリカでは移転後、紙の購入量が約30%減った。

 この結果を見る限り、クオリカの新オフィスでの様々な取り組みは成果を挙げており、方針としても正しいことが確認できたと考えている。今後も新しいオフィス環境の上手な活用の方法を社内に普及、改善し、定着させていきたい。

今後の課題

 VDI、SSL-VPN、BYODなどを利用した新オフィス環境を1年以上活用してきた。その中で、課題として挙がってきたことを最後に整理してご紹介したい。

(1)労務管理

 クオリカでは自宅や社外で仕事をした場合は、所定の手続きを踏んでオフィスで勤務したのと同様の勤務を行ったことにしている。社外接続のアクセスログと勤務時間の申請を突き合わせるなどして申告漏れや過小申告は防いでいる。オフィス見学に来た方から、「その時間中ずっと仕事をしていたかは、どのように確認するのか?」という質問を良く受けるが、「考えている時間」(キー操作を何も行わないが、創造的な仕事では重要な要素である)を客観的に判断することは難しく、今のところは社員を信頼して勤務時間とみなしている。

(2)VDIのレスポンス

 アンケート調査で生産性やスピードが悪くなっていると回答した社員の主な理由が、「システムのレスポンス」であった。確かに、アプリケーションの種類や利用のケースによっては、PCでローカルに処理することに比べレスポンスが大きく遅延することがある。特に、高性能なCPUや大量のメモリを搭載するPCを使用していた社員は落差感が大きいだろう。VDIで提供するリソースについてはバリエーションを用意しているが、レスポンスが大きく劣る場合には、申請してもらい、範囲を限定してPCを利用することも認めている。

(3)VDI端末用PCをSSL-VPN接続する場合のセキュリティチェック

 Windows PCやMacをBYODで使用し、SSL-VPNでVDI端末として接続する場合は、セキュリティチェックを行う。その一環でPCにウイルス対策ソフトが入っており、かつ、指定期間内にパターンファイルが更新されていることを確認している。実はこのチェックが原因で、接続トラブルが発生することが多い。ウイルス対策ソフトは種類やバージョンが多いが、必要なウイルス対策機能を持ち、チェックの仕組みが確実に稼働することを検証したソフトしか、対象としてサポートしていない。サポートされるソフトを使っていても、勝手にバージョンアップをされると、途端に対象外になることもある。

 これらの課題に関しては、技術の進歩により解決する側面と、ルールや考え方を変えないと解決しない側面が存在している。ワークスタイルを変革するのであるから、関連するルールや考え方を変えていくことは避けられない。明らかになってくる課題を、工夫して解決していきたい。


 以上、4回に分けて紹介してきたクオリカの次世代オフィスシステム(Thin Office)は、約420人の社員が16カ月に渡って使用してきた。2012年の7月からは、全社の約1000人に使用を拡大した。この間、障害も発生しているが、全社に影響したり、長時間になったりするような大きなトラブルは一度も無い。これらの新しいシステムは、十分実用できるものであり、利用効果が大きいということを証明できたと思う。

 これからが、上手な活用ノウハウの普及や定着のフェーズだと考えている。全社で改善を重ね、ワークスタイルの変革と生産性の向上を追求してゆきたい。そして、会社、社員、お客様、パートナーなど、あらゆる人がハッピーになる、そんなオフィスを目指していきたい。

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