世界に飛び出せ日本のIT AIU損害保険・古庄さん情シスの横顔

外資系保険会社のIT部門というユニークな環境で日本発のプロジェクトを数多く指揮してきた古庄達郎さん。「お客さまと会社のビジネスにITで貢献する」という、その活躍を追った。

» 2013年05月21日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

法人営業からITの世界へ

 米保険大手AIGグループのAIU損害保険。2001年に同社へ入社したシステム開発第2部 7課 課長兼ソリューション2課 担当課長の古庄達郎さんは、外資系保険会社のIT部門というユニークな環境で多数の社内プロジェクトを指揮してきた人物だ。

AIU損害保険 システム開発第2部 7課 課長兼ソリューション2課 担当課長の古庄達郎さん

 古庄さんは、新卒入社の旅行会社で最初にシステム部門に配属されたものの、わずか1年ほどで法人営業部門に異動する。都心に拠点を置く企業や団体に旅行商品の企画や提案、販売を行ってきたが、最初の配属で触れたITの仕事に魅力を感じ、4年半で転職。旅行会社にITサービスを提供する情報システム会社でメインフレーム向けプログラムの開発やホストシステムの保守などを3年ほど担当した。

 その頃、企業ITの分野ではオープン系システムがにわかに注目され始めた時期だ。メインフレームを担当していた古庄さんは、「技術転換をしてみたかった」という想いと、上流工程の業務の経験を積みたいという希望から、AIUの門戸をたたく。同社は海外旅行保険にも強みを持つだけに、旅行とITの現場でキャリアを積んだ古庄さんにとって、新たな目標に挑戦しがいのあるフィールドだったようだ。

 AIU入社直後から海外旅行保険のインターネット契約システムのリニューアルなど数々の開発プロジェクトやシステムの保守などを担当した。インターネット契約システムは、顧客が海外旅行保険の契約を直接Web経由で行えるシステム。業界内でオープン系システムを導入する動きが始まっていたが、まだ、それほど事例は多いという状況ではなく、システムの開発では苦労も多かったという。

「当時はエンタープライズ向けシステムでJavaを扱ったことのある人が、ほとんどいませんでした。ミドルウェアの使い方や開発の進め方など、ほぼ経験の無い中でプロジェクトを進めなくてはならず、ミドルウェアが急に停止して、『なぜだろう?』と原因究明に追われて会社に泊まり込む日が続くこともありました」

 システムが完成した後も、当時はクレジットカードのみだった保険料の支払いを、コンビニエンスストアの店頭や銀行のATMでも行えるようにシステムを拡張するなど、インターネット契約システムを引き続き担当した。

 2005年に開始した代理店向け販売業務支援システム「RISA(Reliable Insurance System of AIU)」の構築プロジェクトにおいて、大規模プロジェクトのプロジェクトマネージャーとして開発を指揮することになった。RISAは、代理店の店頭で保険証券の発券や収支の管理などの業務がWeb経由で行えるシステムで、プロジェクト期間は2年近くに及んだ。海外旅行保険といっても、その商品内容や販売形態は実に多種多様で、個人向けと法人向けでも大きく異なるという。古庄さんはRISAのシステムメンテナンスを2008年まで担当した。

 古庄さんは日々の業務で、「ITは何のためのあるのか」ということを強く意識しているという。

「ITは間接部門と捉えられることが多いと思いますが、今ではITが無ければ業務は回らないというケースばかりです。当社なら収益の柱である収入保険料にもITが直接関わる分野になってきました。会社が成長するためには、システムの側からどのようにサポートできるだろうかということをいつも考えるようにしています」

顧客と会社にITで貢献できること

 AIUのIT部門は、ガバナンスを担うシステム企画部、運用やユーザーサポートを担うシステムデリバリー部、開発と保守を担うシステム開発第1部・第2部の4つの部署で構成され、協力会社を含めると約300人が同社のビジネスを支えている。システム開発第1部は、代理店関連や契約関連など同社でフロント業務とするシステムを担当しており、RISAもその1つだ。第2部は、同社でバックエンド業務と分類する保険金支払業務や代理店手数料の支払精算、経理などのシステムと米国本社へのレポーティングを担当する。

 古庄さんは、2009年にシステム開発部からビジネスソリューション部に異動する。保険金の支払い業務では顧客から事故などの連絡を受けて、査定(事故の評価)を行い、その評価に基づいて保険金を支払うという一連の損害サービスのプロセスがある。古庄さんは、この業務プロセスを支援するシステムの構築、保守を担い、今度はドキュメントファイリングシステムを構築する、「イメージング」という、ペーパーレス化プロジェクトのプロジェクトマネージャーとなった。

 「イメージング」は、上述の損害サービス業務(保険金支払い)の中で発生するさまざまな紙の書類をイメージデータとして電子化し、全国にある損害サービスの拠点で活用できるようにするもの。開発の狙いは、事業継続性の強化とコスト削減にあった。

「事業継続性の観点では紙の文書のみだと、その書類がある拠点でしか業務を行えません。災害などが起きれば、ほかの拠点から応援が難しくなり、お客さまへの支払いも遅れてしまいます。イメージ化によって文書データを複数拠点に保管したり、アクセスしたりできるようにすれば、こうした課題を解決できると考えました」

 ドキュメントファイリングシステムの開発を進めていた最中の2011年3月、東日本大震災が発生した。システムは完成していなかったが、古庄さんは急遽、臨時のサービスセンターに地震保険に関する書類をイメージ化するためのスキャニングシステムを構築。イメージ化したデータを全国の拠点で共有し、担当者がiPadで活用して、速やかに保険金の支払いをできるようにした。

 2012年2月にドキュメントファイリングシステムが完成した。2012年末までに全ての文書をイメージ化して全国の拠点で利用できるようになり、現在は電子文書による新たな業務プロセスを定着させるための取り組みを全国で進めている最中だ。震災の経験も踏まえた同システムによって事業継続性が強化され、従来は全国の拠点で手作業によって行っていた紙の書類の仕分けなども解消。コスト削減効果も出始めている。

 そして、2012年4月からは現在のシステム開発第2部に異動し、保険金支払業務関連のプロジェクト、システム保守全般を担当している。

日本発のITを世界に

 RISAやドキュメントファイリングシステムなど、同社の基幹業務を支えるこうしたシステムの多くが国内主導で開発された。プロジェクトマネージャーとしての手腕が問われることの一つに関係各所との調整があり、同社でプロジェクトを進めるためには、米国本社やアジア太平洋地区の統括部門との調整が欠かせない。「まず本社にプロジェクトを起案し、社内外のさまざまなステークスホルダーと調整を図りながら、プロジェクトを進めていかなくてはならず、大変なこともあります」(古庄さん)

 これまでに開発したシステムの一部は、国内のAIGグループ企業にも導入され、順次展開されているとのことだ。AIUは、J.D.パワーによる自動車保険事故対応満足度の調査で、4年連続トップとなった。古庄さんをはじめ、同社のIT部門の日々の活躍が、こうした高い評価につながっているともいえそうだ。

 開発の現場に長く携わってきた古庄さんは、「私がこの会社で得た経験を後進に伝えたいですし、スタッフがよい部分を伸ばしていける環境作りに励みたいですね」と、今後の抱負を語る。

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