日産自動車が始めた「ビッグデータビジネス」の狙い(2/3 ページ)

» 2014年03月31日 08時00分 公開
[本宮学,ITmedia]

「安全運転ほど安くなる自動車保険」を目指して

 決められた保険料率を自動車メーカーが変えることはできないが、損害保険会社が自動車オーナー1人1人の運転履歴などに応じて保険料を増減させることはできる。そこで日産が注目したのが、車両ごとの“走行距離”や“運転の安全性”に応じて保険料を変える「PAYD」(走行距離連動型自動車保険)/「PHYD」(運転行動連動型自動車保険)というアプローチだ。

 「リーフは2010年の発売時から、オーナーの許可を得たうえで走行距離、走行開始時刻、位置情報、充電のタイミング/場所といったデータを取っていた。当初はこれらのデータを社内の商品開発用途だけで活用していたが、データを損保会社に提供すれば、オーナーの運転の仕方に応じて料金が安くなる保険商品を作れるのではと考えた」と山下さんは振り返る。

 こうしてリーフのデータ社外提供に向けたプロジェクトが始まったのは2011年中旬のこと。山下さんが所属するEVビジネス部門のほか、同社のIT部門、保険営業部門、カーナビゲーションシステム開発部門などの担当者が週1回ペースで集まり、「どのようなデータを使えば何ができるか」「自動車オーナーのどのような行動が安全運転につながるか」といった話し合いを進めていった。

 プロジェクトの中盤からは損保ジャパンの担当者も加わり、新自動車保険の具体的な内容を詰めていった。一方、そこで課題となったのが、世界中で走っている7万台弱(2014年3月現在)のリーフから生まれる膨大なデータを分析するためのシステムをどう構築するかだったという。

 「当社はこれまでも、販売したクルマ全体の統計解析データを商品開発などに利用することはあった。だが、オーナー1人1人のデータにひも付くサービスを開発するのは今回が初めて。そのためのシステム基盤を新たに用意する必要があった」(山下さん)

 そこで同社は日立製作所と連携し、新たなデータ活用基盤の構築をスタート。リーフに搭載されている「テレマティクス通信ユニット」から得られるデータを日産のデータセンターに送信し、そのデータを日立製作所のクラウドサービス「Harmonious Cloud」と日本マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」を組み合わせたハイブリッドクラウド環境に転送。データを分析/加工した上で、外部企業(損保ジャパン)に配信する仕組みを用意した。

photo 日産が採用したシステム概要(出典:日立製作所)
photo 損害保険会社へのデータの流れ(出典:日立製作所)

 自動車オーナーの個人情報保護にも配慮した。クラウド上のデータにアクセスできるユーザーを厳しく制限するセキュリティ機能を日立と共同開発したほか、日産の法務部門なども交えてオーナーに対する事前説明/同意プロセスを徹底。こうしてさまざまな対策を施したうえで金融庁の認可を取得し、2013年7月に損保ジャパンの新自動車保険「ドラログ」がスタートした。

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