ビジネスの急速な変化に対応するため、柔軟性を持ってスピーディーにサービスをデリバリーすることが求められる今、IT施策においてウオーターフォール型に代わりアジャイル開発を導入することは企業における喫緊の課題だ。本稿では、ガートナーのセッションからアジャイル人材の育成に取り組む企業事例を紹介する。
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ビジネスの急速な変化に対応するためには、臨機応変でアジリティを持ったシステム開発のアプローチが重要だ。ここ数年、その実現に向けて「アジャイル型」の開発手法を採用する開発現場が増加しつつある。
だがアジャイル開発は、従来の、要件定義から順に開発工程を進める「ウオーターフォール型」の開発手法とは異なり、マンパワーの投入でプロジェクトを前に進めることが困難なケースもある。アジャイル開発の実践には、高いスキルを持ち、開発手法に通じた少数精鋭の人材が必要だ。「アジャイル人材」を育成するポイントとは何なのだろうか。
ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)が主催する「ガートナーアプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューションサミット」(2021年6月21〜22日)の講演「アジャイル人材育成のポイント:2021」で、同社の片山治利氏(シニアディレクター アナリスト)が語ったアジャイル開発推進の要点と企業事例を紹介しよう。
片山氏によれば、アジャイル人材を育成する上では「意識」「スキル」「ルール」という3つのポイントを重視する必要があるという。
1つ目の「意識」は3つのポイントの中で最も変化しづらい要素だ。アジャイルという新たなアプローチを採用することに少なからず抵抗を覚えるエンジニアもいるはずだ。片山氏は、エンジニアの意識改革に向けて以下の4点を意識すべきだと主張する。
2つ目は「スキル」だ。ガートナーが2019年にユーザー企業のIT部門を対象に、アジャイル人材のスキルを育成するために採用している手法について聞いたところ、最も多かったのが「OJT」で51.4%で、「外部/社内研修」が24.3%と続いた。
片山氏は、アジャイル人材の育成について「この2つを実施する際には『OJTだけ、座学だけ』ではなく、両方を組み合わせる必要がある。回答割合は低いが『CoE(Center Of Excellence)(注)組織を構築する』『外部からアジャイルコーチを招く』『キャリアパスを設定する』などの取り組みも非常に重要だ」と話す。
(注):本稿では少数精鋭の専門チームを指す。
3つ目は、アジャイル開発体制の推進に向けた「ルール」の構築だ。アジャイル開発を始める際には、まずは既存の開発ルールを適用し、一部アジャイル向けに例外や特別扱いするというアプローチを取る企業が多い。だが、いずれ横展開や全社展開をする際には、アジャイル開発向けのルールが必要になるはずだ。片山氏は、その際の留意点として以下の要素を挙げる。
「特に『アジャイル開発の手法は1つではない』ということは念頭に置く必要がある」(片山氏)
アジャイルを実践するCoE組織を構築する際のポイントについても紹介する。片山氏は、「『最初から多くのメンバーで開発する』というのは無理があるため、少数から始め、徐々に人数を拡大すべきだ」と話す。メンバーを選ぶ際には、経験や技術よりも、やる気や資質、能動的に動ける人材を重視すると良い。
組織管理においては、「アプリケーションのオーナーを決め、開発チームがオーナーの下で『ワンチーム』となりプロジェクトを遂行する体制」である「プロダクト型管理」を採用すべきだ、と片山氏は指摘する。プロダクト型管理であれば、スピーディーな意思決定が可能になる他、目標の実現に一人一人が貢献することを求められるため、メンバーの自立心が育まれる。
片山氏によれば、CoE組織を立ち上げる際には、孤立したり解散したりする恐れがあるため、企業のサポートが必要不可欠だという。
同講演ではアジャイル人材の育成に取り組む6社の企業事例も紹介した。
1社目はSansanの事例だ。同社では、CEOの直下に法人向けの名刺管理サービス「Sansan」と個人向け名刺管理サービス「Eight」を担当する2つの開発部門がある。チームは2チームを併せて約20人で、それぞれプロダクトマネジャー(PM)とUXデザイナー、開発者で構成される。
Sansanにおけるプロダクトマネジメント体制の特徴は、チーム目標ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、明確化されたKPIごとにPMがいることだ。チーム運営の特徴としては、開発者が議論を主導する点が挙げられる。上流から下流といったウオーターフォール型の(一方通行的な)コミュニケーションを防ぎ、開発者の自立性を培うことで、「待ちの姿勢」からの脱却を目指しているという。
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