x86サーバ事業をレノボに売却したIBM、次の狙いは?

レノボにx86サーバ事業を売却し、システム製品のポートフォリオを高付加価値型へとシフトする姿勢を見せているIBM。今後はクラウドやビッグデータ分析、モバイルといったビジネスの潮流に注力しつつ、基幹となるITインフラへの投資も継続するという。

» 2014年10月16日 07時00分 公開
[池田憲弘,ITmedia]
photo 発表会に登壇した、日本IBM 常務執行役員の武藤和博氏

 ボリューム層をレノボに譲り、付加価値の向上に努める――。

 日本IBMは10月15日、同社のシステム製品事業戦略を発表した。ここでのシステム製品事業とはSystem z、Power Systemsといったサーバや、ストレージ製品を指す。同社のサーバ事業と言えば、x86サーバ事業をレノボに売却したばかりだが(関連記事)、今後は付加価値の高い製品に注力し、より顧客のニーズに沿ったサービスを提供していく構えだ。

 同社がこの7月にまとめた調査結果によれば、顧客企業のうち約7割はITインフラが競争優位をもたらすと考えているという。また、世界70カ国のCEO約4000人に対して行った調査でも、マクロ経済や市場動向よりも技術発展の方が関心が高いことも判明しており、ITインフラへの投資を検討する企業が多いことがうかがえる。しかしその一方で、クラウド、ビッグデータ、モバイル/ソーシャルといった新たなテクノロジーに対して十分な準備ができていると回答した企業は1割にも満たないそうだ。

ビジネスの主軸となる“CAMSS”とは?

 日本IBM 常務執行役員の武藤和博氏は、データ分析やクラウド、ソーシャルといったトレンドがビジネスに影響を与え始めていることについて触れ、「これからの時代は“CAMSS”がビジネスを支えて伸ばすだろう。IBMとしてはこの5分野に注力していく」と強調した。CAMSSとは「クラウド(Cloud)」「ビッグデータ分析(Analytics)」「モバイル(Mobile)」「ソーシャル(Social)」「セキュリティ(Security)」の頭文字をつなげたものだ。

 CAMSSがビジネスの中心になる時代において、サーバは、ストレージは、どうあるべきか。これがIBMのシステム製品事業における戦略である。具体的には、データ基盤やアーキテクチャの統合、オープンテクノロジーを活用したハイブリッド・クラウド環境への注力などを挙げた。

photo IBMは今後、CAMSSを軸にした高付加価値のビジネスへとシフトしていくという
photo 日本IBM システム製品事業本部 ハイエンドシステム事業担当の朝海孝氏

 アーキテクチャ統合の意義について、ハイエンドシステム事業担当の朝海孝氏は「既存の業務(コンテキストビジネス)と差別化を狙う業務(コアビジネス)という相反する要件を単一アーキテクチャで実現することで、コストの削減が見込める」と説明した。

 既存のバックオフィス中心の基幹システムは、安定稼働が求められるのに対し、CAMSSを軸とした新しいビジネスに使うシステムは、素早い開発が求められる。必要とされる特徴が異なるため、別のアーキテクチャを採用するケースもある。しかし、あるときは先進的だったビジネスも、時が経って他社が追随すれば“できて当たり前”のビジネスとなる。すると、新しく作成したシステムを基幹システムに統合するニーズも生まれる。その際に同一のアーキテクチャを採用していれば、統合のコストが抑えられる。ここが狙いだ。

 IBMのサーバはセキュリティも重視している。System zやPower Systemsは、x86サーバに比べ、パフォーマンスに加えてセキュリティにも優れる。ハードウェア暗号化のほか、CPU内メモリアドレスの保護、システムログの改ざん防止、OSの不正実行防御といった機能を備えた。

 こうしたハイバリュー重視の戦略は、顧客にも大きな価値をもたらす。米Coca-colaの場合、各拠点ごとから各店舗ごとに需要分析を細かく行おうとしたところ、データ量が20倍に増え、分析処理が商品配送に追いつかなくなってしまった。そこで同社がIBMのPower SystemsとFlashSystemを採用したところ、「処理の時間が4分の1にまで縮まった」(武藤氏)そうだ。

photo コンテキストビジネスとコアビジネス、相反する要件が出るシステムを統一アーキテクチャで実現することで、コストダウンが図れるという

人間の脳を目指したスーパーコンピューターも開発中

 また、今後も引き続きITインフラストラクチャ部門に投資を続けるのも大きなトピックと言える。特にプロセッサについては、5年間で約3000億円の投資が決定しているという。IBMのプロセッサといえば、2011年に完成したスーパーコンピュータ「Watson」が有名だが、同社はさらに2020年に向け、さらに人間の脳に近づけたスーパーコンピュータ「Brain Cube」の開発を目指している。

 「『京』(富士通)など、現代のスーパーコンピュータは確かに処理速度は速いが、消費電力が非常に多い。人間の脳というのは10ワット程度の仕事率で動いている。いずれはその程度の電力で、すさまじいパフォーマンスを発揮するコンピュータが出てくる。そう信じて開発を続けている。これだけの投資ができるのも、大きなキャッシュフローがあるため。これがIBMの強みと言える」(武藤氏)

photo ITインフラのテクノロジートレンド。今後、IBMは人の脳を目指したスーパーコンピュータ「Brain Cube」を開発する計画だ

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