健康医療のビッグデータ活用とリスク対応における欧米の足並みとは?ビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/2 ページ)

ビッグデータ活用の有力分野の1つとなる健康・医療では欧米が大西洋を越えた連携を進める。高まるプライバシーやセキュリティのリスクへの対応を含めた動向を紹介しよう。

» 2015年01月07日 07時00分 公開
[笹原英司ITmedia]

 昨今、日本でも健康医療におけるビッグデータの利活用が話題になっているが、欧米各国では国境や物理的な障壁を超えたICTプラットフォーム上で、様々なイノベーションが生まれている。グローバル環境下では新たな可能性が広がると同時に情報漏えいなどのリスクも大きくなるが、欧米ではどのような取り組みが進んでいるのであろうか。

大西洋を越えた連携

 日本ではあまり知られていないが、欧州連合(EU)と米国は、健康医療における電子化/IT利活用の分野で、大西洋を越えた連携活動を積極的に行っている。そのきっかけになったのが、2010年12月に欧州委員会の通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG CONNECT)と米国保健福祉省(HHS)との間で締結された健康医療の情報通信技術に関する協力についての覚書である。

 この覚書の中で、高度なセキュリティ/プライバシー保護基準を満たした電子カルテシステムの相互運用性の国際標準化と、臨床専門家の経験/実績をITの利活用によって引き出すことのできる熟練した健康医療IT人材の育成が共通目標として掲げられた。2013年3月には、eヘルス/ヘルスITの環大西洋協力に向けたロードマップ(「Transatlantic eHealth/health IT Cooperation Roadmap」を参照)が公表され、2つの柱に基づく具体的な目標と成果物や行動計画が示された。

eヘルス/ヘルスITの環大西洋協力に向けたロードマップ

 このうち国際標準化に向けた取組みとしては、2014年1月に英国のイングランド国営保健サービス(NHS)および健康ソーシャルケア情報センター(HSCIC)と米国の保健福祉省(HHS)の間で、臨床品質指標の共有、オープンデータ利活用に関わる協力、電子健康記録システムの採用、健康医療IT市場の活性化などに関する覚書(関連資料)が締結されている。

 健康医療ITの人材育成支援策としては、2012年10月に第1回(米国・ボストン)、2013年5月に第2回(アイルランド・ダブリン)、2013年10月に第3回(ボストン)、2014年5月に第4回(ギリシャ・アテネ)、同年10月に第5回(ボストン)と、eヘルス技術に関するオープンイノベーション/ビジネスマッチングのイベントが継続的に開催されている。

 クラウドコンピューティング、モバイル/IoT(Internet of Things)、ビッグデータ分析、ソーシャルメディア技術など、最新のテクノロジーに強みを持つベンチャー企業や大学・研究機関、健康医療関連産業クラスターなどの人材が一堂に集まり、グローバルな交流を行っている。

 早くから経済が成熟し、高齢化が進行してきた北欧や西欧の社会保障先進国では、電子カルテシステムに代表される健康医療分野の電子化/IT化が先行しており、蓄積された健康医療データの利活用による各種サービスの効率化/満足度向上、安全対策強化への取組みが本格化している。

 今後は既存の各種健康医療データに加えて、遺伝子解析などで蓄積されたライフサイエンスデータや、電子政府施策で蓄積されたオープンデータを連携させてプラットフォーム化し、産業クラスターの共通基盤として内外からイノベーションを呼び込むことができれば、新たな付加価値サービスモデルの構築を通じて、自国の医療福祉政策や産業育成・雇用創出政策に役立てることが可能になる。

 他方で米国は、2008年のリーマンショック後の景気浮揚策として制定された「2009年米国再生再投資法(ARRA)」に基づく電子カルテ導入支援策(Meaningful Use Stage 1)を契機に、大規模病院から中堅中小規模の病院・診療所へとIT化の波が及んできた。

 日本の団塊世代と同様に、米国でもベビーブーマー世代の高齢化が急ピッチで進行しており、自国内にある既存のテクノロジーや制度的な仕組みだけでは対応が追い付かないという危機感も、IT化のインセンティブになっている。

 これからデータの統合・ニ次利用による付加価値創出の「Meaningful Use Stage 2」を迎える米国の健康医療IT産業にとって、新技術の実証実験を行うプラットフォームを豊富に持つ高齢化課題先進国のEUとの環大西洋連携によるメリットは大きい。

 EU・米国とも、健康医療サービスを提供する医療機関のIT化/効率化から、ビッグデータを活用したオープンイノベーションによる付加価値創造への流れが鮮明になっており、そのトレンドを新規起業・雇用創出に繋げるための仕組みづくりが、各国の健康医療IT戦略の柱になっている。

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