ナースコールが消える? 福井大病院に見る近未来の医療現場(3/3 ページ)

» 2015年06月16日 08時00分 公開
[國谷武史ITmedia]
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ナースコールが進化する

 福井大病院では2014年からナースコールシステムの高度化を目指す実証実験にも取り組む。ナースコールシステムを院内の情報システムと連携させて医師や看護師により多くの情報を提供し、迅速かつ適切な対応を可能にする。

 山下氏によれば、従来のPHSでは呼び出しをした患者の病室しか分からず、看護師は現場に駆けつけて状況を確認し、それから必要な準備や対応を始めなければならなかった。ナースコールを高度化することで、呼び出しと同時にスマートフォンへ患者の名前や所在、呼び出した理由、状況を通知できるようになり、適切な対応がとりやすくなる。

システム連携により、情報活用を高度化(左)。必要な情報を提供することで対応の迅速性と正確性を高められる(右)

 「例えば、感染症のような場合なら担当者以外のスタッフが駆け付けることになっても、事前に感染防止のための準備などができる。将来はナースコールという言葉が消えるかもしれない」

 実証実験では病院内に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した屋内GPS機能を搭載するアンテナを930カ所に設置。看護師らの所在や移動の測定、医療機器などの管理もできるようにした。看護師が持つスマートフォンから位置情報を取得することで、移動など業務の様子を可視化する。可視化された情報を分析して、病院内での動線の改善につなげるのが狙いだ。

病院内に次世代通信アンテナを整備し、収集される情報を様々な改善に役立てていく。ネットワークのIPv6対応はアンテナ機器などを簡単に接続できるようにするためという

 この他にも2人の看護師がパートナーを組んで患者を継続的に看護する「パートナーシップナーシング」にも取り組む。看護に対する成果と責任を共有しながら、1人が看護を行い、もう1人がタブレットから電子カルテに記録するというもので、1人で何役をこなすよりも、患者に寄り添う看護ができると期待されている。

 動線の改善やパートナーシップナーシングに取り組んだ結果、福井大病院では看護師の業務負担が改善され、残業時間も大幅に減少するなど成果を得られた。「看護師の業務環境はどの病院でも大変に厳しく、定時で帰宅できるようなところはまずない。看護師が働きやすい環境作りにもICTは欠かせなくなるだろう」(山下氏)という。

ICTを生かす仕組み作りだけでなく、その実践が働きやすい環境を可能にした

 ナースコールシステムの高度化は患者への新たなサービス提供も実現するという。例えば、食事のメニューや診療、検査といった1日のスケジュールといった連絡事項は、看護師が巡回時に患者へ伝える場合が多い。病室にタブレットを用意することで、患者はいつでも必要な情報を得ることができる。

情報連携が不可欠に

 山下氏によると、医療分野ではメガネ型や時計型といったウェアラブル端末に対する期待も非常に高い。メガネ型端末なら、ディスプレイに表示された情報を見ながら両手で作業ができる。ウェアラブル端末で記録されたバイタルデータなどの健康情報と電子化カルテの情報を連携できれば、予防診療が可能になる。増加する一方の医療費の抑制にもつながるという。

今後は情報を安全に活用していく仕組みがますます求められてくる

 山下氏は「こうした取り組みは決して特別なことではない」と述べ、ICTの活用は社会の抱える様々な課題の解決に貢献するものだと話した。

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