「お茶の間のファンを球場に呼び込む」――野球観戦の新たな体験、ホークスが演出タッチパネルやデジタルサイネージを駆使

福岡ソフトバンクホークスはタッチパネルやデジタルサイネージを取り入れた専用のIT空間を球場内に設置した。これまで球場に来たことがないファンの呼び込みを強化し、球団の収益アップにつなげる。

» 2009年03月05日 09時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 人気選手のメジャーへの移籍、テレビ視聴率の低下など、プロ野球を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした中、球団を運営する企業にとって、既存の顧客だけでなく今まで球場に来たことのない顧客を球場に呼び込めるかどうかは、業績を左右する死活問題だ。

タッチパネルを設置した専用の空間を整備 タッチパネルを設置した専用の空間を整備した

 そんな中、福岡ソフトバンクホークスは新規顧客の獲得に向けて、新たな施策に打って出た。ホームグラウンドの福岡Yahoo!JAPANドームに、IT機器を駆使した専用の観客席を設置した。

 座席に取り付けたタッチパネルからは、イニングごとの映像や選手の詳細情報を閲覧できる。臨場感溢れる球場の雰囲気を体験できる場所に独自のIT空間を演出することで、既存の観戦客に加え、お茶の間でテレビ観戦をしている潜在的な顧客の取り込みを強化する。

タッチパネルで誰でも野球に詳しくなれる

 福岡Yahoo! JAPAN ドームの一角に「シスコゾーン」と呼ぶ専用のゾーンを設置し、プロ野球が開幕する4月にサービスを開始する。貴賓室だった「スーパーボックス」の一部を全面的に改装したゾーンで、タッチパネル式の専用端末付きのペアシートを128席用意する。シートの後方にあるロビーには、さまざまな角度から試合を放映する大型ディスプレイや試合の予定を放映するデジタルサイネージを設置する。ロビーの広さは605.75平方メートル。ビュッフェ形式で食事が楽しめるラウンジも備える。価格はペアシート(2人1組)の利用で1万5000円だ。

 目玉となるのは、タッチパネル式の専用端末。画面上の項目を指で触れると、1イニングごとの試合映像の再生や、複数のカメラアングルによる映像の閲覧、選手の情報検索などができる。各席には無線LAN環境も整備しており、ノートPCやiPhoneをインターネットに接続して使うことも可能だ。

簡単な操作で使えるタッチパネル機能試合のリプレイを確認することも可能 指でタッチするといった簡単な操作でタッチパネルの機能が使える(左)。試合のリプレイを確認することも可能だ(右)

 シスコゾーンの観客席の後部には、デジタルサイネージ(電子看板)を2台設置している。試合のスケジュールや広告を配信することで、あらゆる角度からソフトバンクホークスの情報を伝える。将来的には「配信した広告コンテンツの内容を遠隔地の担当者がデジタルサイネージ経由で説明し、商品の購入につなげる」(シスコシステムズ、サービスプロバイダーマーケティングの生田大朗マネジャー)といった用途での活用も考えられるという。

大型ディスプレイを備えたロビーロビー内に設置されたデジタルサイネージ 大型ディスプレイを備えたロビー(左)内に設置されたデジタルサイネージ(右)

お茶の間のファンを呼び込む

 シスコゾーンには、「テレビで野球を見ている人をドームに呼び込む」(福岡ソフトバンクホークス、広報室の倉野充裕氏)という期待を込めている。野球を観戦するファンには、好きなピッチャーやバッターだけを見たい人や、見逃した試合の場面を繰り返し見たいという人もいる。お仕着せのカメラの切り替えではない映像を提供することで、野球観戦に来てくれる顧客が増やせると考えた。

 球場で野球を観戦する醍醐味は、試合の臨場感を体験できることにある。最新の技術を駆使したサービスの導入は、そうした利点を打ち消すのではないかという不安もあったという。だが、機器を使ってもらう中で「いい評価が得られた」(倉野氏)。タッチパネルを駆使した簡単な操作性や、シスコゾーンを特定の空間で囲わずにむき出しにして、通常の観戦と同様の雰囲気が味わえる環境に近づけたことなどが奏功した。

 「野球を知らない人は、試合を楽しむ前に選手や試合運びを知る必要がある。試合の生の音やファンの歓声を体感しながら、野球を知ってもらえる。また球場での観戦経験が長い人でも新たな試合の見方ができるのではないか」と倉野氏は説明する。既に年間でシスコゾーンの座席を予約する人も出始めており、「一般で販売する座席数が少なくなっている」(倉野氏)など、滑り出しは上々のようだ。


 3月3日に開催された記者会見では、シスコゾーンで使うテレビ会議システムを使って、ソフトバンクの孫正義社長が登場。「ブロードバンドを提供するIT企業として、ホークスを買収したときに野球(という分野)で何ができるかを考えた。シスコゾーンができて、IT企業の球団にふさわしいホームグラウンドになった」とコメントを寄せた。テレビ会議システムやデジタルサイネージを使った本格的なシステムの導入は、日本のスポーツ業界では例を見ないという。福岡ソフトバンクホークスはこうした取り組みを先導することで収益化を強化し、プロ野球全体の底上げを導こうとしている。

テレビ会議システムからエールをおくる孫社長福岡ソフトバンクホークスの秋山幸二新監督 孫社長はテレビ会議システムを介して「ただ一言、優勝してください」と檄を飛ばす一面も。福岡ソフトバンクホークスの秋山幸二新監督は「頑張ります」と答えた

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