東北でいちばん“学生に優しい”情報処理センターを見てきた――東北学院大導入事例(1/2 ページ)

仙台に拠点を置く私学の雄「東北学院大学」は、学生向け情報処理センターの設備を刷新。プロジェクトを主導した松澤教授は「学生本位のセンター運営」を掲げ、同大のノウハウを他大とも共有したいと話す。

» 2009年11月14日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 日本最初のプロテスタント教会を組織した押川方義や、ドイツ改革派教会の宣教師であったW・E・ホーイらが、1886年に開設した私塾「仙台神学校」。そこには西洋の新しい知識を求める青年が集い、百数十年を経た現在は、東北学院大学として宮城県内に3つのキャンパス(土樋、泉、多賀城)を構える、東北の私学の雄に成長した。

 大学・大学院を合わせて約12000人を超える学生を擁し、特に泉キャンパスでは常時6000人の学生が学ぶ東北学院大。同大では、これだけの規模を対象にITを活用した授業を行うために、各キャンパスの情報通信施設を横断管理する「情報処理センター」が組織されている。

東北学院大 泉キャンパス 東北学院は学部と大学院にそれぞれ6学部・7研究科を備える総合大学。写真は仙台市内の泉キャンパス

大学の設備は、学生と教員に対するユーザービリティを重視すべき

 教養学部 情報科学科の教授でありながら、情報システム部長、そして情報処理センター長を兼務する松澤茂 教授は「情報通信施設にとどまらず、大学の設備はユーザー、すなわち学生や教員の使い勝手を考えて用意することが肝要だ」と話す。松澤教授は、情報処理センターが抱える機器のリース切れを翌々年度に控えた2007年の春ごろから、「ユーザー目線」というポリシーに基づき機器刷新の検討を開始したという。

東北学院大の松澤茂 教授 東北学院大の松澤茂 教授。専門分野はデータベースシステム。OBでもある松澤教授は、同大の「CIO」といえる存在だ。「自身の研究や研究室に所属する学生のケアもあるため、情報処理センター長に就任して以来、週末でもなかなか休めない」と苦笑する――

 従来、例えば泉キャンパスの情報処理センターには、学生用に400台以上ものクライアントPCが設置されていた。アプリケーション(約50種類を常時利用しているという)のインストールやOSのパッチ管理などは、情報処理センターやベンダーのスタッフが手作業で行う必要があった。

 また、利用者がPC環境を改変してしまうことを防ぐため、ハードおよびソフトの構成を監視するツールを導入しており、スタッフがメンテナンスする際には「監視ツールを外す→PC環境を構築する→監視ツールを掛け直す……」という手順を踏んでおり、大変な手間と時間を要していたという。

 もちろん「ユーザー本位」の運営体制を崩すわけにはいかないため、こういった作業は休日や夜間に実施することが多かった。それでも作業しきれない分は、メンテナンス中の端末と、メンテナンスが終了した端末をローテーションさせて使う、といった方法でしのいだという。「端末を常時開放できず、学生や教員に対し忸怩(じくじ)たる思いがあった。同時に、スタッフの努力や苦労も察するに余りあるものだった」と松澤教授は振り返る。

 新しい情報処理センター像を模索するため、松澤教授は全教員に対し、情報処理センターに対する要望を徹底的にヒアリングした。ヒアリング内容には、特に縛りを設けず「どんなに細かい要望でも出してもらった」(松澤教授)と話す。

 このヒアリングには、情報処理センターの刷新について、各教員にも主体性を持ち臨んでもらう狙いもあったというが、結果として、講義で使いたいアプリケーションや、利用スタイルについて様々な要望を拾えたという。「例えば地域構想学科の教員からは、GIS(地理情報システム)を利用した講義をしたい、といった要望もあった」(松澤教授)

 運用の負荷を上げずに(むしろ軽減しつつ)、要望を適えられる方法は何か?――複数のベンダーにRFP(提案依頼書)を提示しコストも含めて検討した結果、松澤教授が選択したのはネットブート型のシンクライアントという選択肢であった。

スタッフの運用負荷が劇的に低減

 システムの構成については既報のとおり、NECの機材を中心にまとめられ、サーバは「Express5800/iモデル」、ストレージに「iStorage NV7400」、ネットワークスイッチとして「UNIVERGE IP8800」が導入された。可用性を高めるため、サーバおよびネットワークは冗長構成とし、また冗長化が困難なサービスについては「CLUSTER PRO X」により本番系/待機系の切り替えを可能としている。クライアントはExpress5800/51Maが配置され、シンクライアントであるが故の静音性や省スペース性が、受講環境の改善に一役買ったという。

泉情報処理センター内の「コンピュータ室」の様子(写真=左)と、サーバルーム(写真=右、どちらもクリックで拡大)。第1から第7までのコンピュータ室に、約400台のシンクライアントが並ぶ(写真の教室は100台程度)。端末が省スペース仕様なため、デスクを広く使えるようになり、持ち込んだ資料やノートPCを参照しやすくなった。サーバは約40台規模で、ストレージやネットワーク、電源機器とともに免震装置を備えたラックに収められている

 泉キャンパスのみならず、多賀城キャンパスも同じNECのネットブート型シンクライアントで構築された。一方、土樋キャンパスは日立のネットブート型シンクライアントで構築された。今回のシステム刷新により3キャンパス間での統合認証環境が整備され、学生や教員はロケーションの違いを意識することなく利用できるという。

 マンパワーでカバーしていた運用管理も、シンクライアント化により機器の故障が減ったことや、端末ごとの環境構築が不要になったことなどにより「それはもう、劇的に効率化された」と松澤教授は話す。松澤教授は電力消費についても「試算ではあるが」と断りを入れた上で、40%強の削減を見込むとしている。従来は端末数に合わせ購入していたソフトウェアライセンスは、用途に応じ「最大同時利用数」だけ購入できるようになり、コスト削減も図られた。

 だが、ユーザー本位であることにこだわる松澤教授が本当に力を入れているのは、機器の更新ではない。東北学院大の情報処理センターの真の価値は、学生・教員向けに開発され、運用の中で改善を重ねてきたソフトウェアとそのインタフェースにこそある。

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