特に大きな反対勢力になりそうなのが、ヘルプデスクのスタッフが使っている「問い合わせ記録ツール」をメンテナンスするIT部門の人たちだ。
在宅の人たちにもこのツールを使ってもらうためには、在宅スタッフが自宅からセキュアな方法で社内のツールに接続する環境を整えなければならない。ところが、在宅スタッフは、IT(特にセキュリティ)に強い人たちばかりではないから、「セキュリティレベルを保つのが困難だ」とか、「在宅スタッフを教育するのが難しい」とか、そういう趣旨のことを言いやがる、もとい、おっしゃってゴネる、もとい、おゴネになる、もとい、品の良い言葉が見つからないよぉー。もう、どうでもいいや。
と、とにかく、そんな人たちを説得して、プロジェクトを成功に導くよう関与してもらわなきゃいけないのよ。でもって、それをするのが、この、私?
わたし えー! それってめちゃくちゃ難しくないか?
大きな声じゃないけれど、思わず叫んでしまった。
Aさん 難しいだろうね。
うわっ! この登場の仕方、いいかげんやめてくれないかな……。前にもこういうことがあって、ずいぶんびっくりしたっけ。心臓に悪いぞ、Aさん。というか、“何が難しいか”分かって言っているんだろうか。
Aさん ステークホルダーの本音を聞き出したり、根回ししたり、お願いしたりされたり、説得したりされたり。「プロジェクト・マネジャーの仕事の9割がコミュニケーション」といわれるゆえんは、この辺にあるのかもしれないね。
か弱い(?)私の心臓がまだドキドキしている。そんな私の様子にお構いなく、Aさんはお昼の定食についてきた味噌汁を飲んでいる。あ、そうそう、今がお昼休みだってことを、皆さんにお伝えするのを忘れてたわ。
わたし えーと……
Aさん 実際のステークホルダー・マネジメント計画書やコミュニケーション・マネジメント計画書を参考にしながら、プロジェクトの中でコミュニケーションをとっていくことになる。その時に、相手に合わせたコミュニケーションのとりかたが必要になるし、人間関係のスキル、マネジメント・スキルが役に立つんだ。まあ、その部分が君の言うところの「めちゃくちゃ難しい」部分だね。
それはよく分かる。よぉ〜く分かるけど、じゃぁ、どうすればいいの?
Aさん まずは、ステークホルダーの関与度を「不認識、抵抗、中立、指示、指導」に分けて分析する。その分析は、会議で行うんだ。
Aさんにそう言われて参考書を見てみると、ツールに”会議”とあり、そこには「ステークホルダーに求められる関与度を決定するには、専門家とプロジェクト・チームで会議を開催する必要がある」と書いてある。
Aさんの話によると、実務的には、プロジェクトの成功に必要な計画された関与度と実際の関与度を比較し、関与度が「不認識」や「抵抗」「中立」といった場合は、さらなるコミュニケーションを行う必要があるんだそうだ。このあたり、きっと私を一番悩ますんだろうな。
わたし 新米プロジェクト・マネジャーをなめんなよぉ〜。何にも分からないから突っ走っちゃうんだからね!
Aさん え?
お昼ご飯を食べていたAさんの手が止まる。
わたし ああ、すみません。自分にカツを入れただけです。
Aさん カツ丼定食だけに?
カツ丼定食? そう言われてよく見ると、Aさんのお昼ご飯はカツ丼定食だ。カツ丼と、お味噌汁と、おしんこ。Aさん、知識は豊富だけど、おやじギャクは面白くないぞ。おやじギャグの寒さに固まってしまった私をよそに、Aさんはカツ丼をほおばっている。
なるほど。私にとって、一番影響度が高いステークホルダーは間違いなくAさんだ。昔、危険人物取り扱い主任の資格が欲しいと叫んだけれど、Aさんのマネジメントの方法、特におやじギャグの取り扱いについても、PMBOKに書いておいてほしいものだわ。
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