日本企業の「デジタル化」を後押しするのがセールスフォースの新たな使命

両国国技館の「ワールドツアー」に桁違いの1万4000人を集めたセールスフォース・ドットコム。その新たな使命は、日本企業がスマホやIoTによって顧客とより良い関係を構築する、いわゆるビジネスの「デジタル化」を後押ししていくことだという。

» 2015年12月11日 08時00分 公開
[浅井英二ITmedia]

 12月初め、国内では桁違いの1万4000人を集めたカンファレンスが東京・墨田区の両国国技館で行われた。「ワールドツアー」と銘打たれたセールスフォース・ドットコムのカンファレンスだ。

 同社がビジネスを始めたのは1999年までさかのぼる。インターネットが急速に浸透し、企業も活用し始めた、まさに「ドットコム」時代の真っただ中だったが、同社はいちはやくソフトウェアをサービスとして提供する新しい流儀の伝道師として名乗りを上げ、企業におけるクラウドの普及拡大をけん引してきた。

photo 両国国技館で行われたSalesforce World Tour Tokyo 2015

 社名にもなった「SFA」やニューヨーク証券取引所のティッカーシンボルでもある「CRM」では、次第に大手プレーヤーを脅かす存在となり、2007年からはアプリケーションを構築・稼働させるプラットフォーム、「PaaS」を他社に先駆けて提唱し、企業をあらゆる分野で支えたいとそのサービスを拡充してきた。2016年1月末に締める2016会計年度の売り上げは65億ドルから70億ドルに迫り、次年度は80億ドルを突破し、エンタープライズソフトウェア企業としては4位に躍り出るという。

デジタルテクノロジーによるビジネスの変革を

photo 製品担当プレジデントのアレックス・デイヨン氏

 「もうSQLやHTMLの話をする時代ではない。今回のカンファレンスではクラウドという言葉すら使っていない。われわれのサービスによって、たくさんの企業顧客が成功を手にし始めている。まさにカスタマーの時代だ」──そう話すのは、「Salesforce World Tour Tokyo 2015」のために来日した製品担当プレジデントのアレックス・デイヨン氏だ。全体で55のセッションが行われたが、実に33社に上る顧客事例が紹介されたという。初日の基調講演では、豊田自動織機の事例も披露されている。

 両国国技館の土俵では、フォークリフトを単に販売するだけでなく、ネットワークで接続し、予防保守を実現したり、安全稼働のためのアドバイスにまで踏み込んで、顧客とより良い関係を築こうという同社の取り組みが紹介された。同社の事例は、モバイルデバイスやIoTの進展が、セールスフォースのサービスの使い手を直接の企業顧客だけでなく、その先の顧客にも押し広げていることを示している。

 「クラウドによってヒトもモノもつながるようになり、企業は製品中心から顧客中心にシフトし、顧客に寄り添う新しい商品やサービスによって優れた顧客体験を提供できるようになった。それこそが企業の競争力や価値を高めてくれる」とデイヨン氏。それこそまさにデジタルテクノロジーによるビジネスの変革、すなわち「デジタル化」だ。

 デジタル化によって顧客とのより良い関係づくりを狙っているのは大企業ばかりではない。千葉県の県庁所在地である千葉市は、より良い行政サービスを市民に提供すべく、「ちば市民協働レポート」、略して「ちばレポ」を開設し、地域での困りごとを吸い上げ、効率良く対処することで、より良い街づくりにつなげている。

 「わざわざ市役所に電話して依頼するのもなぁ」と気後れしてしまうようなことでも、ちばレポならスマホで写真を撮り、簡単なコメントを付け加えるだけ。しばらくすると、市役所の担当課から対応を考える旨のコメントがあり、解決に向けて動き出してくれる。

 この場合も直接の顧客である千葉市の先にいる市民がセールスフォースのユーザーとなっている。千葉市はセールスフォースのサービスによって市民に優れたユーザー体験を提供することで、より良い関係を構築できている。フランス国鉄の高速鉄道、TGVでも利用者による同じようなレポートの仕組みが運営されており、新しいスタイルによって顧客の親近感や信頼感を獲得するのに役立っているという。

 「セールスフォースは、デジタルテクノロジーによってビジネスを変革したいCEOのアドバイザーでありたい。一方、CIOや情報システム部門に対しては、自社製品をつなぎ、顧客やパートナーとより良い関係を構築するという、いわゆるデジタル化という仕事をよりシンプルに実現できるようにしたい。なぜなら多くの場合、彼らは既存システムの安定稼働や保守・更新といったことで手いっぱいだからだ」とデイヨン氏は同社の新たな使命を話す。

セールスフォースが注力する4つのテーマ

 セールスフォースのさまざまなサーピスを統括する製品担当プレジデントの彼は、製品戦略上、特に重視している4つのテーマを挙げてくれた。

  1. 顧客と新しいやり方でつなぐ
  2. フォン(スマホ)ファースト
  3. パーソナライズされた体験を提供する
  4. データサイエンスを生かす

 どれも今多くの企業が直面する課題ばかりだ。あらゆるものをつなぎ、使いやすくパーソナライズされた体験が、より良い顧客理解のもとに提供されれば、企業の競争力は大いに高まるはずだ。日本メーカーには、自動車やカメラ、デジタル家電など、信頼できるブランドと優れた品質の製品があるが、所有するというスタイルは次第に過去のものになりつつある。例えばUberは、そうした「シェアエコノミー」の流れに上手く乗ったともいえる。日本企業は、座して待てば、既存のビジネスも破壊されかねない。

 しかし、デイヨン氏は「日本企業は良いポジションにある」と悲観していない。

 「クルマと同じようにカメラもライフサイクルのほとんどを棚で眠っている。次第に所有されなくなるだろうが、ユーザーの気持ちを理解し、必要なときに優れた顧客体験を併せて提供できるようになれば、ビジネスは変革できるはずだ。今回来日してお会いした経営者の多くが新たな成長戦略を描き始めている。セールスフォースは、日本社会に根差した企業として支援をしていきたい」とデイヨン氏は話す。

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