データ分析で食品ロスを「3割減」――気象×ビジネスの可能性(3/3 ページ)

» 2017年02月15日 08時00分 公開
[寺澤慎祐ITmedia]
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データ分析で食品ロスを「3割減」

 ビジネス活用がなかなか進まない一方で、全産業の3割程度は何らかの気象に関するリスクを持つといわれている。日本気象協会では、実際に道路管理事業者や物流関係の事業者に気象情報を提供し、「除雪費用を最小限にしたい」「サプライチェーン最適化」などの課題解決の支援を行った。一般的に、気象情報による問題解決のフローは以下の4つに分けられるという。

  1. 問題点の把握(気象に関する悩みを把握)
  2. 原因の特定(気象の影響を見える化する)
  3. 課題設定(解決案の作成、目標設定、施策の検討など)
  4. 解決策の実施(気象情報による解決策を実施)

 例えば、道路管理事業者の場合、「東京都内の高速道路で積雪があった際に、除雪費用を最小限に抑えた上で通行止めにならないようにしたい」という課題があった。

 除雪費用がかさむ原因は、雪の状況に応じた適切な除雪体制の構築ができていないことにあり、「雪がいつまで降るのか、どのくらい降るのかが分かれば、除雪体制を適正化できるのでは?」という仮説が立った。そこで、インターチェンジごとに、毎日10時と16時に気象情報を予測し、荒天が考えられる場合は、作業者と個別に対話するようにした。データを基に、除雪車の台数と出勤場所を調整することで、より効率的なオペレーションが可能になったという。

photo 道路管理事業者の事例

 物流分野では、原材料提供者やメーカー、卸売、小売などが需要予測をしているものの、それらのデータが統合されていないため、食品ロスや返品などが発生し、最適な物流が実現できていない、という課題が浮上していた。それに対して日本気象協会は、気象データによる需要予測システムを開発し、データを共有する実証実験を進めた。

 例えば、食品メーカーのMizkanとの実証実験では、客観的な気象情報に加えて、気温による消費者心理の変化や実効気温(「どのような経緯でこの気温にたどり着いたか」を算出した指数)によって、中華つゆの売上予測に成功。売れ残りなどによるロスを20%弱抑えることができたという。

 他にも同様の手法で、相模屋食料における豆腐製品のロスを30%程度減らしたり、ネスレ日本に高精度な気象予測データを提供することで、モーダルシフト(トラック輸送から船舶輸送への切り替え)を推進し、貨物1トンあたりで排出される二酸化炭素を半減させることに成功した。

 「このほかにも、気象情報を基にした機械学習で、小売店舗の来店客数を予測するなど、気象データがビジネスに好影響を与えることが分かってきています。まだまだ少ない事例ですし、実証実験ではありますが、国民にとっての貴重な気象予測データは、民間企業にとっても貴重なデータになり得ると思います。これからさらに多くの取り組みを進めていきたいですね」(吉開氏)

筆者紹介:寺澤慎祐

大学卒業後に商社に10年勤務し、日本のITベンチャーでマーケティング責任者を務めたあと、サン・マイクロシステムズの政府官公庁向けビジネス開発を行う。2010年には英国ウェールズ大学のMBAを取得し、2011年にB2Bマーケティングコンサルタントとして独立。2015年にデータキュレーション社を設立した。現在は、データキュレーションの代表であると共にビジネススクールで講師も務め、JDMC(日本データマネジメント・コンソーシアム)のユーザー会にも参加し、データ活用を啓蒙している。

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