口蹄疫で豚が全滅 ITを駆使してどん底から這い上がった畜産農家の起死回生データのじかん(2/3 ページ)

» 2017年12月14日 07時00分 公開

口蹄疫を乗り越え完全復活

 協同ファームでは、吉幸さんの代から豚の飲み水と餌にこだわってきた。井戸水に、ある種のバクテリアやミネラルを加え、ひき立てのトウモロコシをメーンにした自家配合の餌を与える。高品質な肉は次第に評判を呼んだ。

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 2009年に「まるみ豚」として商標登録し、ブランド化に乗り出した。「まるみ」は語感の良さと、丸(味や育てる環境、人など)がたくさん集まった豚でありたいとの願いを込めて命名。ブランドの知名度アップと販路拡大のため、ネット通販も始めた。

 経営が軌道に乗り始めた2010年、宮崎県内で家畜の伝染病「口蹄疫(こうていえき)」が発生。同年4月から8月の間に殺処分された牛や豚などは宮崎県で計29万7808頭にのぼった。「協同ファーム」のある川南町では全頭が殺処分の対象となり、町から牛や豚が消えた。疫病の影響は大きく、県内で離農者が続出した。

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 日高社長は「わが社の豚もゼロになった。恐ろしいことだが、これは一から新しい養豚に取り組むチャンス。若いわれわれの出番だ」と、開き直ったのだという。同じ地域の養豚農家に自分と同じ若い2代目が多かったのも再起の力になった。

 口蹄疫後、まるみ豚は宮崎県畜産共進会など肉豚枝肉部門で3度の首席を獲得して品質の高さを証明した。完全復活を果たしたのだ。

 「協同ファーム」の豚舎入り口には、今も巨大な金属製の防疫ゲートがある。豚舎に入る全ての車両はこのゲートで、人間はその隣にあるプレハブ小屋で、消毒を受けなければならない。「口蹄疫」の再来を厳重に防ぐためだ。

 日高社長は口蹄疫前から、歴史が長く気候風土が日本と似ているヨーロッパの畜産業に注目していた。ドイツやデンマークの畜産を視察し、機械化と自動化がもたらす効率の高さに驚いた。「ヨーロッパに負けない高品質の豚肉を効率的に作れないか……」

 そして、さらなる挑戦がITによる働き方改革であった。

IoTで「機械と人間とのコミュニケーション」

 すでにTeamSpiritやLINE WORKS、iPhoneの活用による効果を実感していた日高社長は、この夏から次のステップに踏み出した。IoTを使った「機械と人間とのコミュニケーション」である

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 日高社長は「養豚業者が豚と向き合う時間は思いのほか少ない」と嘆く。その原因は設備の補修作業に多くの時間をとられるからだ。例えば、自動給餌器やスクレイバー方式の自動除糞(ふん)装置などの故障、水道管の水漏れ、排水溝の詰まりなどが日常的に起こり、従業員はたびたびその補修に追われる。しかも夜間は無人になるため、長いと半日近く故障が放置されたままのことすらある。

 それなら、養豚の複数の設備機器にさまざまなセンサーを取り付け、適正に稼働しているかどうか、故障箇所はどこかといったデータを瞬時に携帯デバイスに配信できれば、補修作業の迅速化や時間の短縮化が図れる。それで生み出された空き時間をもっと豚の世話に振り分けられるのではないか――というのが日高社長の狙い、すなわち「人とコミュニケーションする機械」の活用である。事業のパートナーは、システムフォレスト、データ可視化ツール「MotionBoard」を利用した。

Photo 写真左:システムフォレスト 松永 圭史氏、写真右:協同ファーム 日高 義暢氏

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