画像解析でレガシーな小売業を“データドリブン”に――看板屋「クレスト」2代目社長の挑戦【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/3 ページ)

小売業のリアル店舗に設置し、店舗前の交通量やディスプレイへの関心度を計測する「ESASY」。強い問題意識があっても、アナログな業界にデジタルの考え方を持ち込むのは難しい。IT業界の経験がないという永井氏が、なぜこのサービスを生み出せたのか。

» 2018年04月11日 08時00分 公開
[大内孝子ITmedia]

 Webの広告と同じように、現実世界の店舗に置かれた広告も、ちゃんと数字で効果を証明できないか――。そんな思いから生まれたサービスが「ESASY(エサシー)」だ。ショーウィンドウや商品の前で立ち止まった人の数や時間、属性を画像解析に基づいて数値化するもので、“勘と経験”ではなく、ロジカルに店舗設計などを検討できる。

 このサービスを作ったのは、店舗の看板をはじめ、ショーウィンドウディスプレイのデザインや施工を手掛けるクレストの2代目社長、永井俊輔氏。最先端の技術を使ったサービスを開発し、アナログな分野に導入した一方で、特にIT企業に勤めた経験はないという。ならば、一体どのようにしてESASYは生まれたのだろうか。

Photo クレスト代表取締役社長の永井俊輔氏

画像解析を通じて、リアル店舗の価値を高めたい

 2010年ごろにWeb広告のKPIの仕組みを知った永井氏が着目したのは、「Web広告とリアルな店舗のディスプレイをなぜ同じ軸で評価しようとしないのか」という点だった。どんな看板やポスターでも、出せば必ず何かしらの効果はあるはずだが、メッセージを伝えたい人に伝わらないのでは意味がない。しかし、それを判断するための材料は必要だ。

 「リアル店舗における広告効果が分析されないことに、ずっと疑問を持っていました。5年前はこんなふうに数値化できると誰も思っていなかったのではないでしょうか。あと20年もたてば、確実に世界中のディスプレイ広告の多くはその効果を評価されているはず。でもそれに取り組んでいる企業はどこにもなかった。だから2013年から、直営の店舗で実験を始めたわけです。それから3年、ようやく測定の仕組みができ、お客さまに納品できるようになりました」(永井氏)

Photo カメラを使った画像解析でリアル店舗における商品の注目度を可視化するクレストの「ESASY」

 こうした永井氏の行動の根底には、Eコマース台頭への危機感がある。それに押される形で、以前からリアル店舗の売り上げが減少する傾向にあるが、長年リアル店舗のサイン&ディスプレイに関わってきた永井氏は、リアル店舗とECの2大チャネルの最適化には、まだ大きな可能性があると考えている。

 「リアルが伸び悩むなら、ECで売ればいいと考えるのも分かりますが、単に“きちんとした効果測定がない”という理由だけで、EC側に予算が流れるケースも少なくありません。リアル店舗の場合、売り上げが減ると真っ先に削減されがちなのが販促費ですが、それに対抗する数値的な根拠となる数字がない。

 リアル店舗の投資予算が削られれば、満足な内装もできないでしょうし、売り上げは下がるでしょう。そんな悪循環に陥らないように、データを提供するわけです。お客さまと一緒にリアル店舗の存在価値を高めていければいきたい、というのが僕らのメッセージです。

 先進国のリアル店舗の売上が年々下がっている一方で、EC売上が右肩上がりなのは言うまでもありません。10年後にどうなっているのかというと、いずれ均衡点が見つかると思っています。その頃にはオンラインからオフラインという一方通行ではなく、OMO化(Online Merges with Offline)化が進むでしょう。切り分けて考えるのではなく購買行動の1つとして考える。リアル店舗は購買チャネルの1つでもありながら、もはやカスタマーエクスペリエンス上のコンテンツの1つにすぎないと考えた方がいい――。これが私たちが目指すべき次のステップです」(永井氏)

 もちろん、リアル店舗のウィンドウディスプレイに注力することが最善ではないこともある。実際、店内のディスプレイ広告をなくすかどうか判断するためにESASYを導入したユーザーもいるという。内装担当者の武器になると同時に、ディスプレイ広告を導入する理由を再確認するツールでもあるのだ。

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