チャットbotを導入して、「社内ヘルプデスクの電話対応」をやめてみた結果問い合わせが「10分の1」に(3/4 ページ)

» 2019年01月17日 08時00分 公開
[柴佑佳ITmedia]

チャットbot開発の“盲点”――想定外の使い方に対応できず

photo 横河レンタ・リース 情報システムセンタ システム開発運用部 第四課 加藤美絵さん

 開発チームの誤算はもう1つあった。学習させるデータが有限である以上、チャットbotは全ての質問に答えられるわけではない。そのため、対応できるジャンルをあらかじめ周知していたが、情報システム部門のサポート範囲から外れるような質問が次々と寄せられてしまったのだ。

 「サポート範囲外の質問の中には、勤怠システムの入力方法を問うものもありました。これは本来であれば、人事総務が対応するものです。しかし、勤怠の“システム”である以上、情シスに問い合わせしようとするのは、不思議ではありません」(システム開発運用部 第四課 加藤美絵さん)

 人工知能(AI)という言葉には、どこか魔法のような響きがある。「AIに聞けば何でも答えてくれる」と幻想を抱く人は少なくない。そのような期待を持って質問し、回答が期待外れだった場合、落胆してしまうだろう。

 「導入当初は、情シスへの問い合わせが多い『iPhone』『メール』『PCの操作』の3分野に絞って運用を始め、カバー範囲を少しずつ広げていくつもりでした。しかし、最初の質問で問題解決ができなかったユーザーは、もう二度と使ってくれないんですよね」(浅野井さん)

 その後、試験導入で得られた知見を基にチャットbotをブラッシュアップ。2018年6月に全社へと展開した。リリース直後は問い合わせが多く、1カ月で約1200回ほど使われたものの、8月には約300回にまで減少してしまった。ヘルプデスクへかかってくる電話の件数もほとんど減らなかったという。

 「チャットbotに全く慣れていないユーザーは、『お疲れさまです』や『あのー〇〇ですけど、お疲れさまです』とあいさつから質問を始めたり、まるでメールの文面のように、冒頭で自分の名前を名乗ったりすることもありました。ユーザーの期待値が高く、それに対応できないという点で同じような問題にハマってしまったわけです」(加藤さん)

「電話対応、やめます」に現場の反応は……?

 ユーザーの落胆を感じ取った浅野井さんは、当初の予定を前倒す形で学習を急いだ。回答できる幅を広げ、精度が向上したラッキーくんの利用を促進するため、試験的に「電話問い合わせを受け付けない日」を設けることにしたという。

 「まずは9月に水曜日を“休み”にしました。意外なことに、社内の反応でネガティブなものはほとんどなく、むしろ、同様のサポート業務を行っていた他の課からは、『よく先陣を切ってくれた!』と感謝される声すらありました。一応、本当に緊急の場合のみ電話をかけてもよい、という例外を設けていたのも、大きなポイントだったかもしれません」(浅野井さん)

 電話対応を行う日を減らした分、他の日に問い合わせが殺到する……といった事態も起きなかったため、10月には水曜日と木曜日、11月には金曜日も加えた週3日で電話でのヘルプデスクをやめたそうだ。この施策の効果もあり、電話問い合わせの数は激減し、チャットbotの利用回数は1カ月あたり約1000件にまで回復した。

photo ヘルプデスクへの「メール、電話での問い合わせ件数」とチャットbot「ラッキー」の利用回数の推移

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