基幹システムを「AWS化」 AGCがインフラコストを4割も削減できた理由想定の倍以上のコストダウン(2/2 ページ)

» 2019年01月21日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]
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「支えのIT」から「攻めのIT」へ

 AWSへの本格移行の結果、AGCでは、ITインフラのコストを全体で42.8%削減した。自社のデータセンターを移転し、「フロア貸り」から「ラック貸り」に変更するといったコスト縮小策の効果もあったというが、AWSの仕組みを積極的に活用した結果、「当初想定していた2倍以上のコストダウン効果」が得られたという。

 「開発時期や運用時期に合わせて使うリソースを調整し、その時必要なサーバだけ動かすことで、断続的にコストを下げました。(AWSの割引価格が適用される)リザーブドインスタンスを活用するなど、能動的にコストダウンを図った効果も大きいと思います」(大木氏)

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 AGCの情シスでは、それまでメインで担当していた事務系システムなどのいわゆる「支えのIT」にかけていたコストを削減することで、製造系や技術系など、いわゆる「攻めのIT」にも積極的に取り組む方向へシフトしているという。

 その一環として発足したのが、他部門からの申請に応じてAWSのサービスを提供する社内サービス「Alchemy」だ。社員がサービスの用途や必要な環境などの要望を記した数枚分のExcelワークシートを提出すれば、最短で2日後にはAWSのサーバがもらえる仕組みで、2018年12月の時点で142システム、788サーバが稼働している。

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 「それまでのインフラ開発に付きものだった、サーバの契約や設置といった物理的な作業が一切なくなったことで、開発の効率やスピードが変わりました。Alchemyの申請プロセスからはAWS独特の用語を排除してあるので、AWSを深く知らないユーザーでも使えます。

 Alchemyは標準化を徹底した作りで、使えるサービスも7つに抑えてあるのですが、たくさんあるAWSの機能をフルに使いたい社員に向けては、『Chronos』という別のサービスを展開し、必要なAWS関連の資格を取るための教育制度も始めています」(大木氏)

 また同社では、基幹システムのクラウド化に合わせて、自社のネットワークも強化した。従来は1カ所だった自社のネットワーク拠点を東日本と西日本の2カ所に分け、災害時でも一方が動く環境を確保。新サービスを使う際は、用途に応じて必要なネットワークをどちらかの拠点に付け足すなど、柔軟な対応を可能にした。

AGCが見据えるAWS活用の今後

 AWSの運用を開始して以来、同社ではこれまで数回、サーバが落ちたことはあったものの、いずれも問題なく回復を果たしているという。「落ちないシステムはない。ならば、落ちてもすぐに回復できるシステムにする」という意識が、同社の運用を支えている。

photo (左から)AGCの情報システム部 電子・基盤技術グループでマネージャーを務める大木浩司氏、グローバルITリーダー 情報システム部長の伊藤肇氏、情報システム部 デジタル・イノベーショングループ プロフェッショナルの三堀眞美氏

 情報システム部の三堀眞美氏は、「検討の際から、『システムが止まってから再度立ち上がるまでの時間をできるだけ早くする』点を意識してきました。サーバが落ちてもすぐに回復できる可用性を確保できたことは、ビジネス上大きな差を生むと考えています」と語る。

 AGCは今後、全世界の関係会社も含めたAWSの活用を積極的に進めようとしている。情報システム部長を務める伊藤肇氏は、「2018年には、AWSからAIやIoTに関わる新製品が多く出てきた点が印象的だった。そうした新サービスをいち早く日本で活用したいですね」と話す。

 「製造拠点はアジア各地にあるので、『AWS Transit Gateway』や海底ケーブルの活用などを通してAWSのネットワークが今後より強化されれば、製造の過程で得られたデータを連携、分析することも考えています。自分たちが持つ一連のビジネスの中で、AWSの新たな機能の活用先を見つけていきたいと考えています」(三堀氏)

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