改革に成功するリーダーと失敗するリーダーはどこが違うのか “きれいごとですまない仕事”をやり遂げるためにCIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(3/3 ページ)

» 2019年06月22日 00時30分 公開
[吉村哲樹ITmedia]
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改革のリーダーが直面する「葛藤や迷い」とどう向き合うか

友岡 改革の先頭に立つ人は、絶対に「私心」がないことが条件ですね。公共の善と利益のために考えて動かないといけない。「そんなことして、俺に何か得があるの?」みたいなことを平気で言う人は、上に立つべき人ではないですよ。

中野 まったく同感です。そういう人は周囲に害をまき散らすし、上に行けば行くほど、まき散らす害悪の範囲が広がっていきますからね。

 とある外資系企業のマネジャー研修の話を聞いたことがあるのですが、そこでは自社のバリューである「誠実さ」をいかに大事にするかを学ぶんですね。で、講師が受講者に「あなたに極めて優秀な部下がいて、昇進の条件を全てクリアしていたとします。ただし、“誠実さ”に欠ける行動が幾つか見受けられます。あなたは彼を昇進させますか?」と質問を投げ掛けるわけです。

 受講者は皆、空気を読んで「昇進させない」と答えるのですが、そこで偉い人が出てきて「私なら即刻解雇する!」と言い放つ。勝ち組の外資系企業では企業カルチャーやバリューというものを大切にしますし、それを維持するためにマネジャーや経営層の研修のために膨大なお金と時間を毎年、つぎ込んでいるようです。

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 グローバルに戦線が拡大して、海外拠点にもどんどん権限を委譲していくとなると、それぐらいやらないと自分たちが大事にしているバリューを共有できなくなってしまうんでしょうね。少し前だと評価制度やルールを作り込むことで組織を方向づける流れが主流だったのですが、オペレーションがひたすら複雑になる割には実効性が低いという認識になっているようです。ある種のマイクロマネジメントをする必要がでてしまって、変化の速度に対応するのが難しくなってきたのではないかと。だから最近では、コミュニケーションや教育に注力する傾向があるようです。

友岡 そうだと思います。逆にいうと、それができていればマイクロマネジメントはいらないんです。もうほったらかしで、自由にさせていればいい。

中野 例えばNetflixさんは、細かなルールを設けていないそうです。また、自分たちはトップクラスの人材を採っているという自負があるから、パフォーマンスの評価もしないとおっしゃっていました。フィードバックはものすごく丁寧にやるそうですが。あとファイナンスでは、内部不正をチェックするための細かな作業などは、単に時間の無駄使いなので行っていないそうです。要は、基本的に皆、プロフェッショナルなので、不正はしないという前提なんですね。その代わり、結果とスピードが厳しく求められる。

 マイクロソフトさんもそんな感じでしたね。以前よりもルールで縛るのではなく、カルチャーで方向付けるという方針だとお聞きしました。そういうことが、日本法人のマネジャークラスにも徹底されているところが、北米企業の強さですね。

 われわれ“にゃんこ”は、そういうトラと戦わなければいけないという切迫感があります。やっぱり、Webサービス系で強いのは北米企業なんですね。製造業ではヨーロッパや中国も強いですが、Webサービスはやはり北米企業が強いですね。

 一方、日本のWebサービス企業も海外進出するところが出てきていますが、早々に撤退するケースが多い。そういう先例と同じやり方をすると、恐らく自分たちも失敗するでしょうから、どういうスタンスを取ればいいのか、悩んでいるところですね。

友岡 数は少ないけれど、中にはうまくいっているサービスもありますよね。そういうサービスが抜け出せた理由は、どのへんにあるんでしょうね。

中野 初めから海外に進出することを前提とした経営を行っているように見えますね。優秀な人にはとても高い報酬を出しますし、いきなりFacebookの幹部を引き抜いたりと、普通の日本企業にはなかなかできない施策を打っています。国内でもお金だけでは動かない人材の採用を成功させたりしていて驚きます。

 Webサービスの世界は変化が速く、市場は待ってくれません。勝てないとなると、あっという間に沈んでいきます。情報というものを扱っている特性上、実体がなく、参入障壁も低いので、次々と強力なライバルが現れて勝者が入れ替わっていきます。たとえプラットフォームをおさえてユーザーを囲い込んだとしても、プラットフォームごと廃れることもある。

 そういう過酷な環境で戦っていくためには、ProcessだけではなくPeopleやPolicyの部分まで口を出さなければいけないと考えたんです。「これで本当にグローバルで勝てると思いますか?」という話もせざるを得ない。われわれに残されている時間は短いので、とにかく全力で進み続ける必要がある。

友岡 なるほど。

中野 ストロングスタイルに転向した理由は、そこなんです。ライバルとなる北米企業の人たちは、四半期ごとの業績で生死が決まるような短いタイムスパンで商売を回している。と同時に、中長期での成長を見込めるビジネスモデルで投資も呼び込んで次への手を打ち続ける。今後は、そういうことをやっている人たちと肩を並べることになる。「これはえらいこっちゃ」と思ったわけです。

友岡 そのための仕組みを支えるシステムとしては、やっぱり人事システムが最も重要になってくるのではないでしょうか。

中野 そう思います。ERPパッケージ製品には財務系から派生したものと人事系から派生したものがあるんですが、今回のシステム刷新プロジェクトでは、人事の優先順位を上げたために、人事領域を重視した製品であるWorkdayを選びました。

友岡 サービス企業は、製造業のように生産設備があるわけではなくて、とにかく人が鍵を握る世界ですから、人事は重要ですよね。

中野 おっしゃる通りで、当社のコスト構造を見るとインフラと人件費が圧倒的に大きいんです。その人件費の最適化に今回取り組んだわけですが、Workdayの導入を通じて、結局、タレントマネジメントとは「優秀ではない人に給料を払わずに、優秀な人にその分だけ給料を多く払う仕組み」だということが分かりました。

 身も蓋もない話なのですが、その代わり人事評価は可能な限りフェアにする必要がある。ちゃんとデータを基にフェアに評価ができるように、PolicyとProcessを作らないといけない。それがわれわれに課せられた責任だと理解しました。

友岡 評価制度の作り方をしくじると、企業文化全体が壊れてしまいますからね。ただ、結果を出せなかった個人を解雇する北米流のやり方を、日本企業がどこまでできるのか、本当にやるべきなのかというのは議論の余地がありますよね。

中野 そうですね。本当にやるべきかどうかもそうですし、そもそも北米企業と同じことをして北米企業に勝てるのかという疑問もあります。クックパッドもシステムは北米型を採用しましたが、システム以外の部分も北米型に追随するべきなのかどうかという点については、いまだに模索しているところです。

 そもそも、そこは情シスの仕事ではないのかもしれませんが、ただ、そこまで踏み込まないと、この仕事は終わらない気がしてならないのです。少なくともシステムだけ最適化しても、問題は決して解決しないのは明らかですから。

 ただ、日本のGDPの低さや労働人口減少問題を加味すると、そんなに残された時間はないのかもしれないと思います。もしかすると、もう手遅れかもと思うこともあります。役割だけ考えれば、別にそこまで考えて仕事する必要はないし、システム屋にどうこうできる話なのかどうかも分からない。もちろんお給料にも含まれてない(笑)。それでも無関心ではいられないですね。氷河期世代としてはあのような惨状を次の世代に渡すのは忍びない。

 情シスというのは、手を伸ばして切磋琢磨さえすれば、もっと本質的な課題に踏み込めるポジションだと思うのです。でも、そこまで手を伸ばさないで諦めてしまう人も多いのですが、頑張ってもう一歩前に出て手を伸ばしてほしいと思うんです。やったらやったでものすごくしんどいわけですけど。でも、やっぱり、そういう意志を持った人と働きたいですよね。今は手が届かなかったとしても、手を伸ばし続ける人と。

友岡 その気持ちはとてもよく分かります。ちなみに私がファーストリテイリングに入った目的は、「世界一になるという目標を掲げた企業で、世界一になる」ことだったんです。

 今、フジテックで何をやっているかというと、言ってみれば「瀬戸内少年野球団をメジャーリーガーにする」ということですね。ローカル企業をグローバル企業へと育て上げる――。これが僕の今の楽しみです。

 基本的に、今までやったことがないことにチャレンジするのが好きなんです。まずはパナソニックという数兆円規模の企業で、北米でCIOを務めたり、SCMやERPのグローバルプロジェクトをリードしてきた。だから「もうそういう規模の会社はいいや」と思って、ファーストリテイリングに行きました。「日本から世界に打って出るぞ!」というイケてる会社で頑張っていたんですが、一方でそこで感じたのは「ここには優秀な人はたくさんいるから、僕じゃなくてもいいかな」ということだったんです。

 そうやって今の会社に入ったわけですけど、今は僕でないとできない仕事ができているので、毎日が本当に楽しいですね。

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