あくなき“非連続的な進化”へ――「情報通信白書」が説くDXの正体Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2019年07月16日 14時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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DXの進展に伴って変化するICTの位置付け

 前ページでは、DXの基本的な捉え方について白書から抜粋した。以下には、DXの進展に伴って変化するICTの位置付けに関する項目を取り上げておく。

 日本の企業でICTの導入を推進する情報システム部門は、これまで利益を生まない「コストセンター」として捉えられてきた。また情報システム部門の業務は、商品の開発や提供を行う事業部門など社内の他部門に対して価値を提供する「バックオフィス業務」だった。そして、ICTの導入は企業のコア業務としては位置付けられておらず、情報システム部門からSIer(システムインテグレーター)と呼ばれるICT企業に委託する形が広くみられ、「ベンダー丸投げ」ともいわれてきた。

 だがICTは今後、データが価値創出の源泉となり、企業にとってはプロダクトイノベーションやビジネスモデルの変革を実現するものとなる。ICTを導入する業務は社内ではなく、顧客に対して価値を提供するものであり、「フロントオフィス業務」となる。このようなICTは、企業のコア業務として位置付けられ、従来のSIerへの依存が高い在り方には見直しが迫られることになる。

 企業は今後、フロントオフィス業務としてのICTの導入に当たり、情報システム部門やSIerのサポートを受けた事業部門がより重要な役割を果たし、全体としてプロフィットセンター化する体制にと変化することが求められる。

 既にそのような体制への変化はみられ、例えば日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)と野村総合研究所が実施した「デジタル化の取り組みに関する調査2019」では、デジタル化施策の推進主体について、2017年度調査で「情報システム部門(IT部門)を中心」とする割合が約30%だったのが、2018年度で約17%となり減少傾向にある。一方で、5年後には「情報システム部門と共同チームを中心」とするという割合が約5割に達している(図2)。

Photo 図2 企業におけるデジタル化施策の推進体制

 ICTがビジネスモデル自体を変革していくことに加え、企業の「内と外」の境目を変えるからこそ、経営のレベルでの判断が必要となる。これまで経営レベルのCIO(最高情報責任者)を設ける動きが進んできたが、CIOはあくまでも情報システム部門の責任者であり、事業部門が実施する商品の開発、提供などへの関与は限定的であることが多いとされる。

 こうした中で、CDO(最高デジタル責任者)として事業部門の業務にも深く関わるICTの責任者を設ける企業も出てきている。名称はどのようなものであれ、後者の役割を果たす責任者によるリーダーシップの発揮が求められていくだろう。

 前述のJUASと野村総合研究所による調査でも、デジタル化の取り組みが他社と比べて進んでいるとする「トップランナー」企業では、デジタル化推進の責任者が明確となっており、かつCIOではなくCEOやCDOなどが責任者になる傾向がある。

 他方、デジタル化の取り組みが他社と比べてかなり遅れているとする「フォロワー」企業では、デジタル化推進の責任者が明確ではないとする割合が約5割となっている(図3)。

Photo 図3 企業におけるデジタル化推進の責任者

 そうしたことを踏まえ、新たなICTの位置付けとその推進主体について整理したものが、図4である。

Photo 図4 ICTの位置付けの転換

 以上、今回の白書を基に「DXとは、あらゆる産業にICTが一体化していくこと」を説明してきた。

 今回の白書も非常に読み応えがある。本稿で取り上げたDXの他、例えば「デジタルプラットフォーマーの動向」についても解説している。ICTに関する国内最大の統計資料でもあるので、ぜひ夏休みの機会にでも目を通すことをお勧めしたい。

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