「当社の強みは、ネットワーク、データセンター、クラウドについて、全てアセットとして保有していることだ。マルチクラウドへのニーズに対応して、この強みを生かしたい」(庄司氏)
こう考えたNTT Comは、図2に示すような「ネットワークデータセンター」としての役割を見いだした。これは何かというと、ユーザー企業、クラウド事業者、IX(インターネットエクスチェンジ)事業者/ISP(インターネットサービスプロバイダー)事業者などが、それぞれの間を相互接続できるようにするデータセンターをハブとして設置するという仕組みだ。
こうした仕組みを活用して、同社がSDPFの中核となるサービスの1つとして注力しているのが、「Flexible InterConnect」(FIC)である。FICは、図3に示すように、複数のクラウドサービスやデータセンターなどを閉域網でつないだネットワーク接続基盤で、さまざまなICTリソースへのセキュアな通信を実現するサービスである。同社ではこのFICを「次世代インターコネクトサービス」と呼んでいる。
庄司氏によると、ユーザー企業はFICによって接続先やネットワーク帯域、セキュリティ要件などをポータルで設定すれば、自社に最適なマルチクラウドネットワークを容易に構築できるという。
ここで大きなポイントとなるのは、FICが「閉域網」であることだ。顧客情報などの重要なデータをクラウドで扱う際は、セキュアなネットワーク環境が不可欠となる。これを個別に設置するとなると、クラウド事業者にとっては設備投資や技術的なハードルが高くなる。ということは、ユーザー企業にとっても負担の大きい形となる可能性が高い。(図4)
そうしたユーザー企業やクラウド事業者の懸念を解消するのが、まさしくFICである。庄司氏はFICについて、さらにクラウド事業者に向けて「それぞれのサービスをFICの接続先として追加し、閉域網上で利用できるサービスとして提供することを可能にするものだ。これにより、クラウド事業者のビジネスチャンス拡大に貢献できると確信している」と協業を促した。
あらためて、図5を見ていただきたい。上部に記されている「AWS」「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform(GCP)」と並んで「Enterprise Cloud」とあるのが、NTT Comのクラウドサービスである。これらを閉域網でつないでマルチクラウドとして利用できるようにしたのが、黄色い点線で描かれたFICだ。
こう見ると、Enterprise Cloudは、AWSなどと競合するところもあるものの、FICはマルチクラウド時代に向けて「ビジネスの土俵を変える」、すなわち「ゲームチェンジ」を狙う起爆剤とも見て取れる。これは、先述したネットワークデータセンターの役割を担えるNTT Comならではの戦略といえよう。
果たして、この戦略が同社をマルチクラウド時代の主役へと押し上げるか、注目していきたい。
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