コラム
» 2020年05月20日 08時00分 公開

IT革命2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る:DXが進捗している企業は2025年に向けて人材採用・定着戦略を持つ

人材難、採用難の時代に、DXを推進できる組織は何をしているだろうか。調査で浮かび上がったのはデジタル化の対極にあるアナログな取り組みだ。

[清水 博,デル株式会社]

 「2025年の崖」(注1)まで、それほど時間はありません。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル人材が必要とされています。働き方改革や人材不足の採用難で企業が個々人に向き合い始めた今、現在の企業の命題である「デジタル化」と「人材確保」の関係性を掘り下げました(注2)。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

※注1:経済産業省『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』(2018年9月)による。
※注2:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)の調査結果による。


2025年の崖に向けて、全方位での人材戦略を強化させなければならない

 今さら説明は不要だと思いますが、「2025年の崖」とは、2018年9月7日に経済産業省が公表した『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」の副題「ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」から流行った言葉です。

 複雑化、老朽化、ブラックボックス化した既存システムの継続をしていく場合には、2025年までに予想されるIT人材の引退によるリスクがあることを、レポートでは提言しています。COBOLの技術者などが高齢化してきていることが、この事象に当たります。最近の定年間近の方々はとても健康的で知的探求心を絶やさない方も多いのですが、絶対数が増えることはありません。

 しかも、人材不足の中での採用難の時代です。IT業界は2010年ごろから「3K職場」と言われることも多くなりました。長時間勤務を強いられ、体力的にも精神的にも疲弊しているというイメージを持たれています。昨今の働き方改革でかなり変化していると思いますが、新卒社員のIT業界へ就業意欲がそれほど高くないという調査結果もあり、劇的に改善する日は遠そうです。

 現在のIT人材は絶対に確保し続けなければいけないことを考えると、シニア層には1日でも長く働いてもらい、若手も採用していかなければなりません。全方位の人材戦略をさらに強化し続ける必要を感じました。

多くの企業では「守り」のIT人材採用ですら厳しい

 DXの実現には人材獲得が鍵だと言う方々は少なくありません。

 そこで本連載が題材とする「DX動向調査」の調査項目でも、現時点での人材採用の状況を伺いました。その結果、約3分の1の企業は積極採用していることが判明しました。

 しかし、中身を見ていくと少し傾向が異なります。まず、調査対象の全体平均では従来のIT部門人材とDX人材でそれぞれ29.4%と33.0%とほぼ同じです。しかし、「デジタル推進企業」(注3)では従来のIT部門は21.1%ですが、DX人材はその倍の42.1%となっています。

人材採用傾向の比較 人材採用傾向の比較《クリックで拡大》

※注3:「デジタル推進企業」の定義は本連載第1回で解説しています。


 最近のIT人材不足の裏側ではIT人材の流動化が顕著になっていることが挙げられます。別のキャリアを求めて突然辞めるIT人材も多いことは、読者の皆さんも身近に感じられていることと思います。こうした事情から既存システムを維持するだけでもIT人材が枯渇することもあり「なかなか交代要員を採用できない」という状況をお聞きします。DXに早く着手しなければならないことは多くの企業が分かっています。しかし、デジタル化が進む企業と比較すると、全体的に既存のIT人材の確保にも苦労していることが判明しました。

人材活用施策の先進的な取り組みがDXを推し進める

 さらに「強化している人事活用施策」を調べてみると、大きな差があることが分かりました。デジタル推進企業は全体平均よりも、シニア活用は約1.6倍、女性活躍施策は約1.7倍、外国人採用は2.5倍ほど積極的に実施していました。

人材活用施策の比較 人材活用施策の比較《クリックで拡大》

 TVのニュース報道などでは積極的にシニアを採用する企業を目にします。「定年」を延長したり、廃止あるいは撤廃したりする企業が増えており、ベテランIT技術者を集めて戦力化しています。政府は2020年2月に、企業に対して従業員の70歳までの就業確保に努めるよう求める「高年齢者雇用安定法」などの改正案を閣議決定しました。このこともあり、今後はよりシニア人材の採用が増加することが想像されます。ネット上ではこの法案は若手の就業機会を減らすものとしてネガティブな意見も多いのですが、若手が来ないIT業界では短期的には役立つかもしれません。もちろん、本質的には若手が期待を膨らませて集まる業界にしていかねばならないことは言うまでもありません。

 また、ダイバーシティが進む現在では言及することすら難しい女性の活躍に関する問題もあります。正直なところ日本のIT業界はまだまだ典型的な男社会だというのが筆者の意見です。最近では多くの企業で産前・産後休暇取得促進や育児休業復帰後のサポートなども強化しているといいます。しかし、進んでいる企業ではこのような産休や育児休業などは基本中のキであり、話題にもならない程のテーマのようです。性別に左右されないワークライフバランスや、働き方改革に伴う職場の業務削減、柔軟な将来のキャリアプラン、在宅勤務などの柔軟な働き方の選択肢などが重要だと指摘されています。その結果、女性が働きやすくなったと思うほうが自然なのかもしれません。

 全体平均とデジタル推進企業で一番差が出たのが外国人採用です。最近は多くの外国人をIT部門に迎え入れる企業が増えてきたようです。多くの企業が日本の言語や文化に理解のある外国人を中心に徐々に採用し始めていますが、育成や定着などで苦労する面もあるかと思います。そのため多くの企業が外国籍の従業員雇用に積極的に踏み切れないのが現状なのでしょう。しかし、デジタル推進企業でははるかに積極的に外国人を採用しようとしている状況にあるとする今回の調査結果を見ると、再考すべきなのかもしれません。

 グローバルに展開していかなければならない企業にとっては自らグローバル化するきっかけにもなりますし、日本人の「あうんの呼吸」を前提にしたプロジェクト管理などもきちんと明文化することにより、仕事の仕方も変化します。それもDX実現へのステップなのかもしれません。

アナログ的人事施策の強化

 もともと外資系企業では実施されていた「1on1ミーティング」が、数年前日本でもブームになり、さまざまな企業で取り入れられました。また昨今は人材不足であり、採用強化や退職を少しでも防ぐために従業員の動向を注視する環境になってきていると言えます。

 さまざまな人事施策を強化しつつあるる状況があることから今回の調査では、従業員満足度や表彰制度、1on1ミーティング、小集団活動、全体ミーティングの実態を調べました。一見するとデジタルと対照的なアナログ活動ですが、DX進捗との関係性について調べてみたいという考えが背景にあります。

アナログ人材施策の強化の比較 アナログ人材施策の強化の比較《クリックで拡大》

 調査の結果、ほとんどの施策でデジタル推進企業は全体平均を上回っていることが判明しました。特に顕著だったのは、従業員を個人表彰するようなアワード制度や1on1ミーティングの実施です。一人一人の社員を尊重し、コミュニケーションを高める工夫が取られているのではないかと想像できます。日本企業では全体ミーティングで方針などをシェアすることが多かったと思います。それはそれで悪くない部分もありますが、デジタル推進企業では全体ミーティングが減少している実態も判明しました。デジタル化を進める企業は、個人をベースにしたコミュニケーションが基軸になってきているようです。

 DXで苦労する企業は多いかと思います。そのような場合は少し見方を変えて、人事施策を考えてみると、もしかしたら光明が射すかもしれません。もちろん、多方面に採用を広げることや、今までやっている社員のコミュニケーションなどの方法を変えるということも決して簡単なことではないと思います。しかし身の回りのトランスフォーメーションから着手することは、DX実現に近づく道なのかもしれません。

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