連載
» 2020年05月27日 08時00分 公開

IT革命2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る:マフィア型組織がDX実現に向いている? 〜ティール組織考から

DXが進む企業の組織運営スタイルを調べてみると、興味深い傾向が明らかになった。ティール組織における5段階の組織モデルとの関係から、今、DX推進に必要なフォーメーションを考えていく。

[清水 博,デル株式会社]

 「マフィア型組織」はとても刺激的な言葉です。この言葉は「ティール組織」において「最も初歩的な組織」として説明されています(書籍の概略やその他の組織の分類は後述します)。

 今回は、私たちが実施した調査(注1)の中でも「組織の形態がデジタルトランスフォーメーションの推進に影響するか」を中心にみていきます。

日本企業の組織形態は「ティール組織」のどの段階にある? 大規模の動向調査で見えてきたこと

 2018年に日本でベストセラーになったフレデリック・ラルー氏の著書『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)は、多くのIT系のビジネスパーソンにも読まれたことと思います。実際に組織に取り入れるために読まれているのか、羨望にも近い憧れを持って読まれているのかは分かりません。ただし働き方改革の議論が過熱する中で発行された書籍だったこともあり、多くの方の琴線に触れたのではないかと思います。

 筆者は実際に、先進的なテック系企業の経営者はこの本を参考に自社の組織の進化に取り組んでいると伺ったことがあります。大手企業でも人材不足や働き方改革などで従来よりも個人を尊重した働きやすい環境を目指す上で、この本が参考になっただろうと推測しています。実際に彼らがイノベーションの加速を目指して社内ベンチャー的なプロジェクトを推進したり、年功序列の壁を低くしてフラットな組織形態を目指したりしていることからもその様子がうかがえます。

 そこで、今回の調査では、現在の日本の大手企業はティール組織の5段階のどこに位置付けられるものなのか知るために調査を実施しました。あくまでも自己評価とはいえ、もしかすると日本で最初の大規模ティール組織動向調査かもしれません。調査ではもちろん、「DXの進捗レベル」との関係性と併せて調べました。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。DXの進捗レベルについては本連載第1回を参照ください。


ティール組織で提起された5つの組織モデル

 ティール組織の概念は、従来型の組織から進化して、人々の可能性をもっと引き出す組織とはどのような組織であるかを追求したものです。組織の発達段階を以下の5つに分けています。

レッド(衝動型)組織〜個の力による支配〜

 「オオカミの群れ」の組織と称され、一人の長がその組織を圧倒的な力によって支配している。マフィアやギャングのような組織。

アンバー(順応型)組織〜厳格な階層構造〜

 「軍隊」と称され、厳格なルールと秩序の元に上下関係のランク付けがされたピラミッド型組織。メンバーはトップダウンで決められた役割を秩序にのっとって全うするため、安定的な働きをする。教会や軍隊、官僚組織。

オレンジ(達成型)組織〜機械的な組織〜

 階層的な構造を維持しながらも、成果や結果を収めた者は昇進できる実力主義。組織の目的のために効率性を重視する。プロセスやプロジェクトを重視するが、アントレプレナーシップを持ってイノベーションを起こすこともできる。グローバル企業に多い。

グリーン(多元型)組織〜格差のない協働型組織〜

 オレンジ組織から進化した、より個人の主体性や多様性を尊重する“家族”“コミュニティー”組織。リーダーは存在するものの、意思決定の権限は全従業員にあり、ボトムアップのプロセスを採用している。

ティール(進化形)組織〜

 上下も役職もない生命体のような組織 〜上司や部下、役職も存在せず、組織が“進化する”という目的のためにメンバー全員が生命体のように機能する組織。

デジタル推進企業にティール組織やグリーン組織はなかった

 意識的にティール組織を取り入れている企業ばかりではないし、なかにはティール組織の5段階を初めて知った方もいたかと思いますが、調査対象の企業には現在の組織に近い状態を自己評価で選んでもらいました。

DX動向調査「ティール組織モデル」《クリックで拡大》 DX動向調査「ティール組織モデル」《クリックで拡大》

 全体調査平均ではティール組織5.4%、グリーン組織12.8%、オレンジ組織47.3%、アンバー組織22.7%、レッド組織11.8%という結果でした。やはりティール組織と自認する組織は希少であり、グリーン組織でも全体の1割程度とあまり多くない状況が判明しました。調査対象の多くが日本の伝統的な大手企業なので、当初の予想では階層構造を重んじたアンバー組織が多いと考えていました。しかし、実際にはオレンジ組織が調査対象の半分を占めるなど、予想以上に組織の進化が進んでいる実態が把握できました。昨今の働き方改革などでIT部門が個人を尊重した組織に急速に変化する姿が推察されます。また少数派ではありますが、日本ではブラック企業やブラック組織とほぼ同等と思われるレッド組織も存在していることが判明しました。

 一方、デジタル推進企業の「デジタルリーダー」と「デジタル導入企業」の結果は全く予想だにしないものでした。驚くべきことに、デジタル化戦略に親和性が高そうなティール組織やグリーン組織が1社も入っていませんでした。デジタル推進企業に属している組織はオレンジ組織、アンバー組織、レッド組織だったのです。何度も調査結果を確認しましたが、やはりティール組織やグリーン組織は1社も入っていませんでした。あくまでも自己評価のアンケートなので、正確にティール組織の5段階に合致しているのかと言われると確かでない部分はあるとは思いますが。

 デジタル推進企業では全体調査平均に比べるとレッド組織は1.8倍、アンバー組織は1.6倍ほど多かったです。レッド組織には良いイメージがなく、DXとは一番懸け離れている存在と思っていたので意外な結果でした。ただし該当するレッド組織の企業を追跡調査したところ、確かに強烈なリーダーが存在しており、指示が明快なトップダウンで、評価システムなどもシンプルだということで、決してネガティブなイメージはありませんでした。

 また、ティール組織やグリーン組織と回答した企業に追跡調査をしました。その結果、デジタル化については積極的だけれどもより高いレベルでのゴール設定がされているので、現状のデジタル化はまだ途上であると考える企業が多数を占めました。一般的には相当デジタル化が進んでいる企業です。

 ただし、上記はポジティブな理由なのでいいのですが、一方では不安な情報もあります。それまでいろいろ試行錯誤してやっとの思いでグリーン組織に到達した瞬間から予想外なことが起きた企業もありました。マネジメントの方法もワンステップアップし、新しいマネジメントの考えを取り入れなければいけないこともあり、予想外の障壁に苦しんでいる状況にあることが分かりました。

マフィア型組織の二面性

 映画を見ていますと、マフィアや任侠の世界には組織の厳しい掟(おきて)が存在しますが、そのリーダーの人間的奥深さで求心力を保ち、組織の力を最大化している姿を見受けられます。また先に「DX実現まで2.5年、スピードが命のDXで自社は『ベニザケ型』か『ヒメマス型』か」でお伝えしたと通り、デジタル化を推進するにはスピードが重要です。そのため、単純明快な指示系統を構築して実行しやすい組織がデジタル化には有効であると言えます。

 しかし、全てのレッド組織を礼賛できるわけではありません。レッド組織は二つの組織に分離されます。デジタル化に成功しているデジタル推進企業のレッド組織は、あくまでも一部です。もう一方のレッド組織のほとんどの企業は、デジタル化が進んでいない「デジタルフォロワー」「デジタル後進企業」に属しています。その該当企業の方にヒアリングすると、DXに向けてスタートしたものの人員や予算の度重なる削減がある、はしごを外される、上位方針がDXの認識に迷走しているなど、ありとあらゆる苦労が渦巻いている姿を伺えました。先にも進めない、後戻りもできない状況を見聞きすると、デジタル化が進んでいないレッド組織は一刻も早く次のステップに進むことが何よりも先決だと感じました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ